全人代、党大会控え人心安定優先――習政権の苦渋にじむ
「三去」によって解雇される者が増えたり、倒産企業が増えたりするという「痛み」を伴うので、どんなに「一降一補」をしても追いつかず、そのさじ加減が難しい。やらなければ中国の経済は減速するだけだし、やれば人民の不満が増大する。
経済が減速したのでは「中国共産党が統治しているからこそ、中国経済は成長し続けるのだ」という、中国共産党による統治の正当性を人民に示すことができない。すると人民の不満が噴出する可能性がある。となると一党支配体制は崩壊の危機に直面する。だから、「三去一降一補」を一定程度推進するしかない。
しかし推進すれば必ず解雇された労働者からの不満が爆発し、これもまた一党支配体制を崩壊させるきっかけを導きかねない。
「長征」精神に学ぼう!――苦労に耐えるのだ!
ならば、どうすればいいのか?
苦労に耐えるのだ!
1970年代末から一人っ子政策が始まっているので、辛抱ができない、わがままな若者が増えている。彼らには毛沢東が行なった「長征」の過酷な経験を知らせ、その過酷な経験にもめげずに耐え抜いた当時の中国共産党軍(紅軍)の精神を学ばせる。「偉大な革命のために――!」
だからいま、習近平国家主席は毛沢東回帰をし、長征映画やテレビドラマを強制的に放映し、教育機関でも「長征精神」を叩きこんでいる。
いかに毛沢東が偉大であったか、いかに勇敢に抗日戦争を戦ったか。だから、国民党軍から逃げるために徒歩で北西にある延安にたどり着いた長征を、中国では「北上抗日」と呼んでいる(それがいかに偽りであるかは拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に、詳細に書いてある。中共軍が逃げた先の延安には、日本軍はいない)。
習近平国家主席への個人崇拝と抗日神話は、このために必要なのである。
習近平への「一強」を、権力闘争などと、現実離れしたことを言っている研究者やメディアは、中国の真実を見る目を日本人から奪っていると言っていいだろう。
また、李克強が報告で何回「習近平を核心と言ったか」を数え上げて「一強」の証拠などと報道しているメディアは、日本人の中国観を誤導しているとしか言いようがない。