【写真特集】ウクライナ東部に残されたトラウマ
<セルゲイ・トレチアコフ(21)>自分の手で再建を試みるドネツク州アウディイウカの実家に立つトレチアコフは、砲撃で母を失い、父も6カ月後に心臓発作で亡くなった。今は工場のカフェで働き、12歳の弟の面倒も見る。今年1月に生まれた息子こそが「私の生きる理由だ」と話す
<親ロシア派武装勢力と政府の間で今も戦闘が続くウクライナ東部では、日常的な恐怖によって兵士や住民の精神がむしばまれている>
戦争が破壊するのは目に見えるものだけではない。爆撃や死の恐怖の中で過ごす日常は、人々の精神を少しずつむしばむ。
ウクライナ東部では親ロシア派武装勢力と政府の戦闘が今も続く。紛争が本格化した14年4月から約1万人が死亡、100万人以上が住む場所を追われた。
危険な状況を生き延びた市民や兵士らはやがて落ち込んだり、憤りを感じたり、戦闘を続ける両勢力への過剰な疑念を抱くようになる。子供たちは眠れず、悪夢を見たりお漏らしをしたりする。
医療・福祉関係者は絵画や手仕事によるセラピー、カウンセリングなどで根気強く精神的なケアを提供しているが、人員も施設の数も足りず、十分な支援体制は整っていない。
【参考記事】亡命ロシア下院議員ボロネンコフ、ウクライナで射殺
メンタルヘルスをめぐるソ連時代の悪弊も状況を悪化させている。当時、反体制派を弾圧するために精神障害と診断し、病院に隔離する手法がまかり通っていた。そのため人々は今でも、精神分析医を訪れて「正気でない」と烙印を押されることを恐れがちだ。
明るい兆しもなくはない。9月下旬にはウクライナと親ロシア派、ロシアの3者が紛争沈静化に向けた枠組みで合意。戦いの終結を切望する人々の心も少しは癒やされただろうか。