「世界一の祝祭」リオのカルナヴァルは熾烈なリーグ戦だった
欧州から米国、アジアまで世界に広がるサンバ人気
このように、外国からも多数の観客と参加者を引き付ける本場リオのカルナヴァルだが、サンバ人気はすでに世界中に広がっている。欧州、北中南米、アフリカ、オセアニア、アジア......と、各地にエスコーラ・ヂ・サンバとそのパレードによるフェスやカルナヴァルが存在するのだ。
なかでも最大は、ドイツのコーブルクで行われるサンバフェスティバルだ。ポルトガルでは全国各地にエスコーラ・ヂ・サンバが結成されている。フランスやスペインにもあるし、ロンドンのノッティングヒル、フィンランドのヘルシンキなど、欧州各地の地元エスコーラ・ヂ・サンバによるカルナヴァルが人気だ。本場リオのエスコーラのメンバーによる出演・指導は1970年代後半から大小さまざまな実績があり、東はロシアまでまさに欧州全域、さらには中東にも広がっている。
筆者自身もロンドンの2強エスコーラに参加し、指導をしたことがある。そこで驚いたのは、今やニューヨークに並ぶ人種の坩堝となっているロンドンを表す状況がエスコーラ内にもあることだった。メンバーは英国人や英国連邦出身者に限らず、世界中からの労働者や留学生などさまざまな国籍・職種・世代の人たちがエスコーラに参加しているのだ。移民大国ブラジルで培われたサンバ特有の"対話・共有型文化"が、現代欧州の多民族混成都市の抱える複雑な状況に対し、同じような機能を果たしていることに感心し、その威力と効能を改めて知った。
一方、米国には現在、約37万人を超すブラジル人が各地に在住している。筆者は同国でのブラジル人の動向についても1996年から追い続けてきた。なかでも7万人が住むニューヨーク都市圏をはじめ、ブラジル人が多く暮らす米国各都市でのブラジルフェスが大規模で有名だ。そこで行われるサンバは長い歴史があり、リオとの深く親密な関係性をもち続けている。すでに非ブラジル人メンバーが主流となっていて、筆者もリオの各エスコーラで活動する米国人打楽器奏者やダンサーと多く知り合っている。
それらに比べて規模とレベルは落ちるものの、アジアではシンガポールやソウル、また日本でも浅草サンバカーニバルが本場に準拠した形態をとっている。世界中の他の音楽文化と比べても、これだけ大規模な参加型で、かつ普及しているものは他にないと言えるのではないだろうか。
サンバは"対話・共有型文化"、ただの音楽文化ではない
なぜサンバは、世界でこれほど人気を博しているのだろうか。リオ発祥のエスコーラ・ヂ・サンバは、ざっくり言えば、地域と日常生活に根差したサンバ・コミュニティーだ。各地の大会場(クアドラ)は自治体・共同体の現場としてさまざまな機能を果たし、そこではカルナヴァルとは異なる普段着のサンバが日常的に行われている。そしてカルナヴァルの時には、パレードチームとなるのだ。このフォーマットとメソッドが世界各地に広まっているわけだが、ポイントはなんといっても"リオらしさ"にある。
ブラジルはロシア以外の欧州がすっぽり入るほどの大国だ。日本の約23倍もの規模がある。さまざまな先住民族が暮らしていた広大な地に、ポルトガル人を皮切りに、アフリカ大陸各地、全欧州、そして中東、アジアに至るまで、世界中の民族が流れ込み、混血し、形成された。まさに国自体が国際社会の縮図のような歴史をもつのだ。
大混乱を極めた"移民混血大国"が果てしない労苦の末に生み出したのが"対話・共有型文化"としてのサンバであり、欧州にもともとあったものとは異なる独自のカルナヴァルだった。それゆえに外国人と異文化に寛容でオープンな社会性を有しているのがブラジルの特徴であり魅力だ。リオのカルナヴァルとエスコーラ・ヂ・サンバはまさにそのシンボル的存在と言える。