最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

サウジ国王が訪問を中止したモルディブが今注目される理由

2017年3月22日(水)17時40分
山田敏弘(ジャーナリスト)

政治対立が続くモルディブ(写真は2012年に首都マレで抗議の声を上げるナシード元大統領の支持者) Adnan Abidi-REUTERS

<サルマン国王がモルディブ訪問を急遽中止したのは、テロの懸念があったから――インド洋の島国モルディブは今、大国同士のせめぎ合いの渦中にある>

サウジアラビアのサルマン国王一行が、1カ月近くに及んだアジア歴訪を終えた。

サルマン国王は4日間の日程で日本にも立ち寄り、安倍晋三首相と会談するなど、サウジアラビアへの積極的な投資を求める旅になった。その後、一行は中国に立ち寄って関係強化を演出し、順調に外交行脚を続けたが、最後の動向が憶測を呼んでいる。

帰国前に予定されていたモルディブへの訪問を急遽キャンセルしたのだ。

モルディブ政府によれば、キャンセルの理由は国内で流行している豚インフルエンザを警戒してのことだった。だが専門家に言わせれば、それはあくまで表向きの理由で、本当の理由は別のところにあった。

サルマン国王一行に対するテロの懸念が指摘されたからだという。

なぜ、サルマン国王がモルディブで命を狙われなければならないのか。その背景には、モルディブが地政学的に重要な国として注目度が高まっているために、サウジアラビアが強引に影響力を強めようとしていることがある。ただモルディブを取り込みたいのはサウジアラビアだけではない。中国もモルディブを取り込み、インドやアメリカをけん制するという構図がある。今モルディブはどんな状況に置かれているのか。

【参考記事】外国人労働者に矛先を向ける「金満国家」サウジアラビアの経済苦境

モルディブは、インド洋に浮かぶ1192の島々からなる島国で、国土の総面積は東京23区の約半分ほど。国内の島々はインドの南西に連なるように並んでおり、中東やアフリカからアジア、オーストラリアへと抜ける重要なシーレーンに近い。島々のリゾート地による観光業に依存しており、食料の9割を輸入に頼っている。40万人の人口のほとんどは、イスラム教スンニ派だ。

そんなモルディブを、同じイスラム教スンニ派が多数を占めるサウジアラビアは、インド洋の戦略的に非常に重要な国と位置付けている。そしてモルディブに対する影響力を確保するため、惜しみなくオイルマネーを使ってきた。

例えば2013年には経済の停滞に苦しむ同国に3億ドルを用立てし、2015年には予算の足しにと2000億ドルを提供。また軍事施設の建設に5000万ドルを支払う約束をしたり、北部の環状サンゴ礁を港として使えるかどうかの研究費用に100万ドルをポンと提供したりしている。こうした投資以外にも、モスクやアラブ文化の施設を建設している。とにかく、金をばら撒いている印象だ。

こうした取り組みのおかげもあってか、モルディブは2015年にサウジアラビアのライバル国でシーア派国家のイランと国交を断絶した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中