最新記事

米中関係

ティラーソン米国務長官訪中――米中の駆け引き

2017年3月21日(火)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

互いに「いざとなったら軍事行動に出るぞ」と威嚇しながら、腹の探り合いとプロレスのリング上に立っているようなボディ・ランゲージによって、「きれいごと会談」をやってのけたわけだ。

結果、アメリカは?

その結果、何のことはない、ティラーソン国務長官帰国と入れ替えに、アメリカは北朝鮮に関する六者会合(議長国:中国)の米代表を韓国に送り込んでいる。日本ではあまり報道されていないが、中国ではCCTVでもネットでも熱心に報道している。たとえば中国共産党傘下の「環球網」をご覧いただきたい。

まるで王毅外相の「ほら見ろ、中国が勝利した」と言わんばかりの声が聞こえてきそうだ。

というのも、前出の3月12日付の本コラム「パク大統領罷免とTHAAD配備に中国は?」で詳細に述べたが、王毅外相は3月8日、全人代(全国人民代表大会)の外交部記者会見で、「武力より対話を」と呼びかけているからだ。

一方、六者会合の米代表を韓国に送り込みながら、なお同日トランプ大統領は「中国はといえば、北朝鮮問題に対して、何の貢献もしていない」と発言。行動と発言が異なっている。

それも互いに来月に開催されるとされている米中首脳会談をにらんでのことか。

外交を任務とする国務長官が国防長官の役割を果たすことはできない。「たかだかビジネスマンじゃないか」といった先輩づらで、王毅外相(ごとき?)に、舐められないようにしてほしいものだ。

習近平政権誕生以来、中朝首脳会談が行われていないことからも分かるように、中国は暴走する北朝鮮に激怒しながら、実は出口のないジレンマに追い込まれているのである。北朝鮮がアメリカに武力攻撃されるくらいなら、いっそのこと中国が北朝鮮を武力攻撃して現政権を崩壊させようかという気持さえ持つ一方、戦争だけは起きてほしくないとも思っており、北朝鮮という国が消滅することも望んではない。日米韓に対する防波堤が無くなるのは嫌だが、国連決議による制裁を繰り返している間に、北朝鮮の核・ミサイル能力が発展していくのは、もっと困る。いざという時には北朝鮮をやっつけることはできなくなるし、戦争などが起きて中国国内における社会の平穏が乱されれば、中国共産党による一党支配体制が崩壊するだろうことも知っているからだ。

そのジレンマの中にありながら、虚勢を張る中国。だから中国には六者会合に持って行く対話の選択しかないのである。

米中両国の腹の探り合いと駆け引きは、しばらく続くだろう。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中