ティラーソン米国務長官訪中――米中の駆け引き
互いに「いざとなったら軍事行動に出るぞ」と威嚇しながら、腹の探り合いとプロレスのリング上に立っているようなボディ・ランゲージによって、「きれいごと会談」をやってのけたわけだ。
結果、アメリカは?
その結果、何のことはない、ティラーソン国務長官帰国と入れ替えに、アメリカは北朝鮮に関する六者会合(議長国:中国)の米代表を韓国に送り込んでいる。日本ではあまり報道されていないが、中国ではCCTVでもネットでも熱心に報道している。たとえば中国共産党傘下の「環球網」をご覧いただきたい。
まるで王毅外相の「ほら見ろ、中国が勝利した」と言わんばかりの声が聞こえてきそうだ。
というのも、前出の3月12日付の本コラム「パク大統領罷免とTHAAD配備に中国は?」で詳細に述べたが、王毅外相は3月8日、全人代(全国人民代表大会)の外交部記者会見で、「武力より対話を」と呼びかけているからだ。
一方、六者会合の米代表を韓国に送り込みながら、なお同日トランプ大統領は「中国はといえば、北朝鮮問題に対して、何の貢献もしていない」と発言。行動と発言が異なっている。
それも互いに来月に開催されるとされている米中首脳会談をにらんでのことか。
外交を任務とする国務長官が国防長官の役割を果たすことはできない。「たかだかビジネスマンじゃないか」といった先輩づらで、王毅外相(ごとき?)に、舐められないようにしてほしいものだ。
習近平政権誕生以来、中朝首脳会談が行われていないことからも分かるように、中国は暴走する北朝鮮に激怒しながら、実は出口のないジレンマに追い込まれているのである。北朝鮮がアメリカに武力攻撃されるくらいなら、いっそのこと中国が北朝鮮を武力攻撃して現政権を崩壊させようかという気持さえ持つ一方、戦争だけは起きてほしくないとも思っており、北朝鮮という国が消滅することも望んではない。日米韓に対する防波堤が無くなるのは嫌だが、国連決議による制裁を繰り返している間に、北朝鮮の核・ミサイル能力が発展していくのは、もっと困る。いざという時には北朝鮮をやっつけることはできなくなるし、戦争などが起きて中国国内における社会の平穏が乱されれば、中国共産党による一党支配体制が崩壊するだろうことも知っているからだ。
そのジレンマの中にありながら、虚勢を張る中国。だから中国には六者会合に持って行く対話の選択しかないのである。
米中両国の腹の探り合いと駆け引きは、しばらく続くだろう。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。