最新記事

IT企業

プライバシー保護がスナップチャットの成長戦略

2017年3月21日(火)11時20分
ケビン・メイニー

フェイスブックの「いいね!」や投稿内容に関連した広告を表示するターゲット広告は既におなじみだ。グーグルも検索ワードやGメール内の単語を使い、同様の広告を展開している。だがこれらも、IT業界が開発中の機械学習という複雑な「料理」に比べれば、具のないサンドイッチのようなものだ。

今やソフトウエアは人間とほぼ同等の言語理解能力を身に付けた。アマゾン・エコーやグーグル・ホームのような音声認識端末を家庭に導入するのは、わざわざ盗聴機器を自宅に設置するようなものだ。

この手の機器は表向き、「アレクサ」のようなトリガーワード(きっかけの言葉)で呼び掛けて初めて反応する仕様になっている。だが実際には、近くで私たちが発した全ての言葉を聞き取り、分析する能力がある。

警察や弁護士は興味津々だ。アーカンソー州で起きた殺人事件では、警察が容疑者宅にあるエコーの存在に気付き、アマゾンに対してエコーが聞き取った全記録の提出を要請した。アマゾンは保存されているのはトリガーワード後の数秒分の言葉だけだとして要請を拒否したが、今後こうした事例が増えるのは確実だろう。

またスマートテレビメーカーのビジオは先日、顧客の視聴習慣をこっそり追跡していたとして罰金を科された。

モバイルアプリのユーザー追跡能力は高い。カーネギー・メロン大学のノーマン・サデー教授らが行った研究によれば、グルーポンやウェザーチャンネルのようなモバイルアプリは、3分おきにユーザーの位置情報を集めていることが判明した。

【参考記事】キリンのビールが売れなくなった本当の理由

いずれユーザーが反乱?

今では個人情報を企業のデータベースに転送するIoT(モノのインターネット)関連機器も大量に出回っている。家系調査サイトのアンセストリー・ドットコムや、将来に病気などを引き起こす可能性がある遺伝子の有無を調べてくれる23アンドミーのサービスを利用するために、DNA検査キットを購入するユーザーも多い。

この分野も法執行機関の関心の的だ。アイダホ州で起きたある殺人事件では、警察がアンセストリーのデータベースにあったDNAサンプルとの照合によって、1人の容疑者の身元を特定した例がある。

NSAや企業がデジタルデータと遺伝子情報を組み合わせて使用するようになったら、私たちが何を話し、どこに行き、誰と知り合いで、どんな出自なのかまで知ることができる。

いずれ大量のユーザーが、自分の情報が丸裸にされていることに気付き、個人情報の無料提供を止める日が来るかもしれない。この「反乱」は、IT業界に大打撃を与えるはずだ。

私たちは無料サービスと引き換えにプライバシーを売り、企業は個人情報に基づくターゲット型マーケティングを展開している。多くのユーザーが「ゲーム」から抜ければ、このビジネスモデルはもう終わりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中