極右政治家ウィルダースはオランダをどう変えるか
ウィルダースの立場は複雑だ。今年に入ってから公表された世論調査では、PVVが支持率の首位に立つことが多いが、他の主要政党はPVVとは連立を組まないと宣言している。イデオロギーの面で意見が合わない上、これまでの経緯からウィルダースを信用できない理由がある。ウィルダース率いるPVVは、2010年から2012年にかけて、当時のルッテ政権に閣外協力という形で参加したが、ウィルダースが財政支出削減に反対したため政権が崩壊した。他の政党が前言を撤回しない限り、PVVは最大政党でも政権からは締め出されることになる。
だがこれはある意味で、ウィルダースにとって理想的なシナリオかもしれない、とケンブリッジ大学で極右政党を研究するレオニー・デヨングは指摘する。PVVが最大政党になっても連立を立ち上げられないという事態になれば、ウィルダースは裏取引を通じて政権に影響力を行使する。そのほうが、反エスタブリッシュメントというイメージは保たれる。
「ウィルダースは首相になるつもりはない、というのが大方の見方だ」とデヨングは述べる。「部外者でいた方がもっと多くのことができる。ウィルダースは、負け犬のアウトサイダーという役割を演じるのがとてもうまいのだ」
偏狭になった心
「オランダの脱イスラム化」を前面に掲げるウィルダースは、イスラム教の礼拝所モスクの閉鎖や聖典コーランの発禁、政府による難民受け入れ政策の根本的な見直しなどを主張。EU離脱を問う国民投票の実施も求めている。
兄のポールは、ウィルダースが政権を獲る代わりに自分の信念を手放す可能性は低いとみる。「ここ数年の弟は、単に政治的影響力や権力を手に入れたがっていただけだった」。だが差別的な言葉で多くの人々の怒りを買い、極端に厳しい警備がまとわりつくようになった現在の「孤立した」生活のせいで、ウィルダースは偏狭になり、自分の主張が正しいと信じ切ってしまったとポールは指摘する。
「誰が連立に参加しようと、向こう4年間、弟は厄介な野党勢力になる。まさにそれが彼の目的だと確信している。短命になるのが目に見えるから、そもそも政権入りを狙っていない」
EU懐疑論や移民政策で、ウィルダースが数の力を利用して連立与党を右方向に引きずり込む光景は、容易に想像できる。現にデンマークの右派ポピュリスト政党、デンマーク国民党は、与党ではないが閣外協力することで強い影響力を発揮し、中道右派の連立政権の移民政策を一段と強硬なものにさせている。