最新記事

フィリピン

内憂外患のフィリピン・ドゥテルテ大統領、暴言を吐く暇なし

2017年3月14日(火)14時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

フィリピンでは麻薬関連犯罪の容疑者などが裁判中や服役中に行方不明になったり、原因不明で死亡したりするケースがあることからデリマ議員の身の安全を危惧する声も出ているが、国家警察長官は「警備を厳重にする」と特別配慮を示した。

デリマ議員はドゥテルテ大統領が就任後積極的に進めている麻薬関連犯罪容疑者の超法規的殺人を容認する政策に「人権侵害の疑いがある」として反対を表明。ドゥテルテ大統領がダバオ市長時代に麻薬犯罪容疑者を殺害する処刑団を容認していた容疑で元処刑団のメンバーを証人として委員会に喚問するなど反ドゥテルテの急先鋒として注目されてきた。

【参考記事】比上院議員、ドゥテルテを大量殺人や人道に対する罪で告発

しかしその後、委員会メンバーを解任され、愛人問題、麻薬関与などが次々とマスコミを通じて"暴露"され、政治生命の危機に追い込まれていた。

真価問われる政権

依然として国民の80%以上という高い支持率を背景に、ドゥテルテ大統領は麻薬犯罪の徹底的取り締まり政策を継続する一方で、議会内の反対勢力対策を強化、野党から与党に移籍する議員も増えている。

一連の流れの中でもデリマ議員の反対姿勢が変わらないことから、ドゥテルテ政権は麻薬犯罪関連容疑で現職の上院議員逮捕という強硬策に打って出たのだった。

こうした前例があることから今回大統領の不正蓄財を再度告発したトリラネス議員にも今後政権側からの厳しい対応が予想されている。

当のドゥテルテ大統領は最近は、麻薬犯罪捜査に関連して麻薬を使用・所持したり、麻薬と無関係の犯罪容疑者あるいは一般市民を殺害したりする「悪徳警官」を摘発したり、政権との和平交渉が決裂して再び戦闘状態に陥っているイスラム系武装組織「アブサヤフ」や共産党系「新人民軍」への対応に迫られるなど、内政の難問の中を漂流している。かつての暴言、放言はすっかり影を潜めた格好だ。

フィリピンは今年ASEANの議長国として外相会議をはじめとする各閣僚会議、日米中も参加する拡大外相会議、そして渦中の北朝鮮もメンバー国として参加するASEAN地域フォーラム(ARF)などの重要外交日程を抱えている。

ヤサイ外相の後任にはマナロ外務次官が外相代行として任命されたが、外交手腕は未知数。有能な右腕を失い、告発にさらされるなどでフィリピンのマスコミの中にも手厳しい批判が出始める中、どこまで自己流を押し通していけるのかドゥテルテ大統領も正念場を迎えている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、クルスク州の完全奪回表明 ウクライナは否定

ワールド

トランプ氏、ウクライナへの攻撃非難 対ロ「2次制裁

ワールド

イラン南部の港で大規模爆発、14人死亡 700人以

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中