内憂外患のフィリピン・ドゥテルテ大統領、暴言を吐く暇なし
フィリピンでは麻薬関連犯罪の容疑者などが裁判中や服役中に行方不明になったり、原因不明で死亡したりするケースがあることからデリマ議員の身の安全を危惧する声も出ているが、国家警察長官は「警備を厳重にする」と特別配慮を示した。
デリマ議員はドゥテルテ大統領が就任後積極的に進めている麻薬関連犯罪容疑者の超法規的殺人を容認する政策に「人権侵害の疑いがある」として反対を表明。ドゥテルテ大統領がダバオ市長時代に麻薬犯罪容疑者を殺害する処刑団を容認していた容疑で元処刑団のメンバーを証人として委員会に喚問するなど反ドゥテルテの急先鋒として注目されてきた。
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しかしその後、委員会メンバーを解任され、愛人問題、麻薬関与などが次々とマスコミを通じて"暴露"され、政治生命の危機に追い込まれていた。
真価問われる政権
依然として国民の80%以上という高い支持率を背景に、ドゥテルテ大統領は麻薬犯罪の徹底的取り締まり政策を継続する一方で、議会内の反対勢力対策を強化、野党から与党に移籍する議員も増えている。
一連の流れの中でもデリマ議員の反対姿勢が変わらないことから、ドゥテルテ政権は麻薬犯罪関連容疑で現職の上院議員逮捕という強硬策に打って出たのだった。
こうした前例があることから今回大統領の不正蓄財を再度告発したトリラネス議員にも今後政権側からの厳しい対応が予想されている。
当のドゥテルテ大統領は最近は、麻薬犯罪捜査に関連して麻薬を使用・所持したり、麻薬と無関係の犯罪容疑者あるいは一般市民を殺害したりする「悪徳警官」を摘発したり、政権との和平交渉が決裂して再び戦闘状態に陥っているイスラム系武装組織「アブサヤフ」や共産党系「新人民軍」への対応に迫られるなど、内政の難問の中を漂流している。かつての暴言、放言はすっかり影を潜めた格好だ。
フィリピンは今年ASEANの議長国として外相会議をはじめとする各閣僚会議、日米中も参加する拡大外相会議、そして渦中の北朝鮮もメンバー国として参加するASEAN地域フォーラム(ARF)などの重要外交日程を抱えている。
ヤサイ外相の後任にはマナロ外務次官が外相代行として任命されたが、外交手腕は未知数。有能な右腕を失い、告発にさらされるなどでフィリピンのマスコミの中にも手厳しい批判が出始める中、どこまで自己流を押し通していけるのかドゥテルテ大統領も正念場を迎えている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など