最新記事

ロシア

止まらないプーチンの暗殺指令

2017年3月8日(水)11時00分
ジェフ・スタイン

magw170308-02.jpg

2度目の暗殺未遂に遭ったカラムルザ(左)と15年に殺害された野党指導者ボリス・ネムツォフ(14年) Alex Wong / GETTY IMAGES

ルゴボイは自分にかけられた嫌疑を「でっち上げ、推測、噂」にすぎないと一蹴。今は下院議員なので、ルゴボイには免責特権がある。

00年にイギリスに亡命したリトビネンコは、英情報機関から援助を受けていた。彼はロシアマフィアとスペインのつながりを調査していたという。ルゴボイはKGBの元職員で、リトビネンコのお茶にポロニウムを混入したと考えられている。

イギリス人ジャーナリスト、ルーク・ハーディングはこの事件をたどる『ひどく高価な毒物』を出版。「リトビネンコはジェームズ・ボンドではなかった」と、ガーディアン紙の元モスクワ特派員のハーディングは書いている。

「しかし英情報機関に、ヨーロッパで暗躍するロシアマフィアと、プーチンを含むロシアの権力層の関係についての貴重な情報を渡していた」

リトビネンコなら、きっと言ったに違いない。プーチンと閣僚とその仲間が「マフィア国家」としか呼びようのないものをつくり上げている、と。あるいはオライリーがトランプに言ったように、プーチンを「殺人者」と呼んだかもしれない。

しかしトランプは「殺人者はこの国にもいっぱいいる」と、プーチン擁護とも取れる発言をして大きな非難を浴びた。

【参考記事】プーチンがひそかに狙う米シェール産業の破壊

「米ロは道徳的に異なる」

AFIOのオールソンが作成したリストに載っているどの件についても、プーチンや側近が関与した疑いこそあれ、それを証明するのは不可能だ。

それでも謎めいた死に方をしたロシアの反体制派やジャーナリストはあまりに多い。そのためオールソンは、いくつか誤りがあったとしても、すべてをリストに入れることにした。

その1人がプーチンの元側近で、15年11月にワシントンのホテルの部屋で変死したミハイル・レシンだ。「自分を汚職容疑で告発しないようFBIに掛け合っていた」との話もあったと、オールソンは書いている。警察は最終的に、急性アルコール中毒のために転倒して生じた外傷が死因だと結論付けた。

一方、2月に倒れたカラムルザは15年に飲まされた毒物による症状から回復しておらず、杖を使って歩いていた。前の事件と同じく、今回も毒物を特定できないという。妻は原因を突き止めるため、彼の血液サンプル、毛髪、爪をイスラエルの研究所に送った。

プーチン政権の被害者と思われる多くの人々と違って、カラムルザには有力なアメリカ人の友人がいる。その1人が共和党のジョン・マケイン上院議員。彼は議会で、トランプが曖昧な表現ながらもロシアとアメリカは似た者同士だと言ったことを激しく非難した。

カラムルザは「プーチンのロシアとアメリカに道徳上の等価性がないことを理解していた」。マケインはそう言った。「繰り返す。あの殺し屋でならず者のKGB(のプーチン)と、この国に道徳上の等価性はない。あると主張するのは勘違いも甚だしいか、あるいは偏見に凝り固まった考えだ」

さあ、オールソンのリストの出番だ。オライリーは次の機会にリストをトランプに見せ、こう質問すればいい。「これまでアメリカ大統領を批判して、その大統領の指示で殺害された者はいるか?」

[2017年3月7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領「自身も出席」、日本と関税・軍事支援

ワールド

イランのウラン濃縮の権利は交渉の余地なし=外相

ビジネス

タイ、米国産LNGの輸入拡大を計画 財務相が訪米へ

ワールド

英平等法の「女性」は生物学的女性、最高裁が判断
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中