止まらないプーチンの暗殺指令
ルゴボイは自分にかけられた嫌疑を「でっち上げ、推測、噂」にすぎないと一蹴。今は下院議員なので、ルゴボイには免責特権がある。
00年にイギリスに亡命したリトビネンコは、英情報機関から援助を受けていた。彼はロシアマフィアとスペインのつながりを調査していたという。ルゴボイはKGBの元職員で、リトビネンコのお茶にポロニウムを混入したと考えられている。
イギリス人ジャーナリスト、ルーク・ハーディングはこの事件をたどる『ひどく高価な毒物』を出版。「リトビネンコはジェームズ・ボンドではなかった」と、ガーディアン紙の元モスクワ特派員のハーディングは書いている。
「しかし英情報機関に、ヨーロッパで暗躍するロシアマフィアと、プーチンを含むロシアの権力層の関係についての貴重な情報を渡していた」
リトビネンコなら、きっと言ったに違いない。プーチンと閣僚とその仲間が「マフィア国家」としか呼びようのないものをつくり上げている、と。あるいはオライリーがトランプに言ったように、プーチンを「殺人者」と呼んだかもしれない。
しかしトランプは「殺人者はこの国にもいっぱいいる」と、プーチン擁護とも取れる発言をして大きな非難を浴びた。
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「米ロは道徳的に異なる」
AFIOのオールソンが作成したリストに載っているどの件についても、プーチンや側近が関与した疑いこそあれ、それを証明するのは不可能だ。
それでも謎めいた死に方をしたロシアの反体制派やジャーナリストはあまりに多い。そのためオールソンは、いくつか誤りがあったとしても、すべてをリストに入れることにした。
その1人がプーチンの元側近で、15年11月にワシントンのホテルの部屋で変死したミハイル・レシンだ。「自分を汚職容疑で告発しないようFBIに掛け合っていた」との話もあったと、オールソンは書いている。警察は最終的に、急性アルコール中毒のために転倒して生じた外傷が死因だと結論付けた。
一方、2月に倒れたカラムルザは15年に飲まされた毒物による症状から回復しておらず、杖を使って歩いていた。前の事件と同じく、今回も毒物を特定できないという。妻は原因を突き止めるため、彼の血液サンプル、毛髪、爪をイスラエルの研究所に送った。
プーチン政権の被害者と思われる多くの人々と違って、カラムルザには有力なアメリカ人の友人がいる。その1人が共和党のジョン・マケイン上院議員。彼は議会で、トランプが曖昧な表現ながらもロシアとアメリカは似た者同士だと言ったことを激しく非難した。
カラムルザは「プーチンのロシアとアメリカに道徳上の等価性がないことを理解していた」。マケインはそう言った。「繰り返す。あの殺し屋でならず者のKGB(のプーチン)と、この国に道徳上の等価性はない。あると主張するのは勘違いも甚だしいか、あるいは偏見に凝り固まった考えだ」
さあ、オールソンのリストの出番だ。オライリーは次の機会にリストをトランプに見せ、こう質問すればいい。「これまでアメリカ大統領を批判して、その大統領の指示で殺害された者はいるか?」
[2017年3月7日号掲載]