デビッド・ボウイが愛したネットという実験場
新しいことを試すのが大好きだったボウイはネットの活用法を探っていた(1994年頃) TIME & LIFE PICTURESーTHE LIFE PICTURE COLLECTION/GETTY IMAGES
<新曲の発表からユーモアたっぷりのQ&Aまで、デビッド・ボウイが探ったファンとの双方向な関係>
デビッド・ボウイは音楽の世界のパイオニアだった。それは誰もが知っているけれど、彼がインターネットの世界のパイオニアだったことはあまり知られていない。
例えば96年、ボウイは新曲「テリング・ライズ」を自分のウェブサイトでリリースした。これは有名アーティストが、ダウンロード可能な形で新曲を発表した初めてのケースと言えるだろう。
その2年後には、インターネットのプロバイダーとファンクラブを兼ねたサイト「ボウイネット」を公開。「会費」は月額19・95ドル(プロバイダー機能が不要なら5・95ドル)だった。ファンはこのサイトに設けられた掲示板で、あれこれ意見を交換できた。
【参考記事】「音楽不況」の今、アーティストがむしろ生き残れる理由
いま聞くと掲示板なんて「古い!」と思うかもしれないが、当時としては斬新だった。「ツイッターやフェイスブック、インスタグラムはもちろん......マイスペースやYouTubeに何年も先駆けて設置されたボウイネットは、インターネット時代の(アーティストと)ファンの関係の双方向性を予見していた」と、ビルボード誌は昨年ボウイが69歳で急逝したときに書いている。
ボウイネットの最大の魅力は、時々ボウイ自身が「セーラー(船乗り)」のハンドルネームでコメントを残したことだろう。「ボウイがコメントすると、みんな一斉に『ハロー、セーラー!』と書き込んだものだ」と、あるファンは振り返る。コメントの内容はイチ押しミュージシャンの宣伝から、噂の否定、音楽談義までいろいろあった。例えば04年11月、ボウイはアーケイド・ファイアのデビューアルバム『フューネラル』を大絶賛している。
「今年の最優秀アルバムはアーケイド・ファイアで決まりだ。とにかく今日、今すぐ、急いで買ってほしい。見事な曲作りと予測不可能な演奏で、こんなに美しくて、感動的で、情熱的なアルバムを聴くのは何年ぶりだろう!!!」
事実無根の噂をはっきり否定することもあった。07年には、ボウイとポール・マッカートニーとマイケル・ジャクソンが、宇宙人に向けてコンサートをやっているというデマを否定。マイスペース上の偽「公式サイト」がボウイの写真を勝手に使っていることに、「勘弁してくれ」とぼやいたこともある。