最新記事

音楽

デビッド・ボウイが愛したネットという実験場

2017年3月3日(金)11時00分
ザック・ションフェルド(本誌記者)

新しいことを試すのが大好きだったボウイはネットの活用法を探っていた(1994年頃) TIME & LIFE PICTURESーTHE LIFE PICTURE COLLECTION/GETTY IMAGES

<新曲の発表からユーモアたっぷりのQ&Aまで、デビッド・ボウイが探ったファンとの双方向な関係>

デビッド・ボウイは音楽の世界のパイオニアだった。それは誰もが知っているけれど、彼がインターネットの世界のパイオニアだったことはあまり知られていない。

例えば96年、ボウイは新曲「テリング・ライズ」を自分のウェブサイトでリリースした。これは有名アーティストが、ダウンロード可能な形で新曲を発表した初めてのケースと言えるだろう。

その2年後には、インターネットのプロバイダーとファンクラブを兼ねたサイト「ボウイネット」を公開。「会費」は月額19・95ドル(プロバイダー機能が不要なら5・95ドル)だった。ファンはこのサイトに設けられた掲示板で、あれこれ意見を交換できた。

【参考記事】「音楽不況」の今、アーティストがむしろ生き残れる理由

いま聞くと掲示板なんて「古い!」と思うかもしれないが、当時としては斬新だった。「ツイッターやフェイスブック、インスタグラムはもちろん......マイスペースやYouTubeに何年も先駆けて設置されたボウイネットは、インターネット時代の(アーティストと)ファンの関係の双方向性を予見していた」と、ビルボード誌は昨年ボウイが69歳で急逝したときに書いている。

ボウイネットの最大の魅力は、時々ボウイ自身が「セーラー(船乗り)」のハンドルネームでコメントを残したことだろう。「ボウイがコメントすると、みんな一斉に『ハロー、セーラー!』と書き込んだものだ」と、あるファンは振り返る。コメントの内容はイチ押しミュージシャンの宣伝から、噂の否定、音楽談義までいろいろあった。例えば04年11月、ボウイはアーケイド・ファイアのデビューアルバム『フューネラル』を大絶賛している。

「今年の最優秀アルバムはアーケイド・ファイアで決まりだ。とにかく今日、今すぐ、急いで買ってほしい。見事な曲作りと予測不可能な演奏で、こんなに美しくて、感動的で、情熱的なアルバムを聴くのは何年ぶりだろう!!!」

事実無根の噂をはっきり否定することもあった。07年には、ボウイとポール・マッカートニーとマイケル・ジャクソンが、宇宙人に向けてコンサートをやっているというデマを否定。マイスペース上の偽「公式サイト」がボウイの写真を勝手に使っていることに、「勘弁してくれ」とぼやいたこともある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン外務次官、核開発計画巡る交渉でロシアと協議 

ビジネス

トランプ関税で実効税率17%に、製造業「広範に混乱

ワールド

米大統領補佐官のチーム、「シグナル」にグループチャ

ワールド

25%自動車関税、3日発効 部品は5月3日までに発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中