最新記事

朝鮮半島

中国の対北朝鮮の強硬姿勢は本物か?

2017年3月7日(火)11時20分
J・バークシャー・ミラー(本誌コラムニスト、米外交問題評議会研究員)

国境の鴨緑江に架かる「中朝友誼橋」は友好のシンボル Thomas Peter-REUTERS

<北朝鮮からの石炭輸入の停止措置は、トランプ政権に探りを入れる手段にすぎない>

中国政府が2月中旬、北朝鮮からの石炭輸入を今年末まで停止すると高らかに宣言した。中国は北朝鮮産石炭の「お得意様」。昨年は2250万トンを輸入し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権に12億ドル近い現金収入をもたらした。北朝鮮の輸出全体を見ても、中国への依存度は90%に近い。

国連安全保障理事会による再三の制裁決議を無視して核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対して、国際社会は圧力を強めてきた。今回の声明は、中国がついに国際社会に同調する動きを示した画期的な出来事のように見えるかもしれない。

だが現実には、そこまでの話ではない。中国が挑発的な北朝鮮を「抑制」しようとしていると称賛する前に、慎重に検討すべきことがある。

第1に、声明の内容は目新しいものではない。中国は北朝鮮制裁に自分たちも参加しているとトランプ米政権や国際社会に思わせるため、ちょっと派手な芝居を打っただけだ。

実際、石炭輸入停止は、前からある合意の表紙を変えただけ。昨年9月に北朝鮮が5度目の核実験を行った後、中国は北朝鮮からの石炭などの輸入制限強化という国連安保理の新たな制裁決議に同意していた。つまり大きく譲歩したのではなく、決議に従ったという話にすぎない。

【参考記事】北朝鮮外務次官訪中を読み解く――北朝鮮の狙いと中国の思惑

第2に、中国は石炭輸入を「禁止」すると言ったわけではなく、今年いっぱい凍結、つまり「一時的に停止」すると言っただけだ。

第3に、中国が制裁を本当に履行するのか、履行の有無をどう確認するのかという疑問がある。今までも中国の制裁は手ぬるく、国際社会が履行状況を確かめる手だてもほとんどない。

注意が必要なのは、中国は鉄や燃料や食料など5億ドル相当の「国民生活に不可欠な援助品」にまで手を付けるつもりはない点だ。昨年の中国の対北朝鮮輸出額は約30億ドルで、代金の大半は不良債権として処理された。

こうした背景を理解した上で、なぜ中国が北朝鮮を公然と批判するのかを考えることが重要だ。中国政府は当然、北朝鮮が安保理決議を無視して核開発を続けることに不満と憤りを感じている。北朝鮮の非核化への支持を明らかにもしている。北朝鮮が核・ミサイル実験を行うたびに、中国は制御能力を疑われて面目丸つぶれだ。

「ポスト朴槿恵」対策も

だが中国にとってもっと重要なのは北朝鮮の核実験が、アメリカとその同盟国である日韓にTHAAD(高高度防衛ミサイル)やミサイル防衛といった強力な抑止政策を取る動機を与えていること。日米韓の協力強化は、中国の戦略的利益に反する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:米財務長官指名のベッセント氏、注目すべき

ワールド

レバノン停戦合意、米仏大統領が近く発表か イスラエ

ワールド

OPECプラス、12月会合で減産継続検討も アゼル

ビジネス

米メーシーズ、第3四半期決算の公表延期 従業員の経
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 3
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 4
    テイラー・スウィフトの脚は、なぜあんなに光ってい…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 7
    日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心...エヌビ…
  • 8
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 9
    またトランプへの過小評価...アメリカ世論調査の解け…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中