3.11から6年、セキュリティ専門家が語る原発サイバー攻撃のリアリティ
米NSA(国家安全保障局)は2013年末の段階で、世界89カ国で8万5000台ほどのコンピューターまたはシステムに、監視プログラムなどを埋め込んで支配下に置いていたことが判明している。そうした作戦を担当しているのが、NSAの先鋭部隊で、米サイバー作戦の最前線にいるTAO(テイラード・アクセス・オペレーションズ)と呼ばれるチームだ。またTAOの中にはさらに能力の高い凄腕たちがいて、彼らはROC(リモート・オペレーションズ・センター)と呼ばれている。こうしたチームの詳細は著書に当たってもらいたい。
つまり、日本のインフラにアメリカによって監視などのプログラムが埋め込まれるのは、十分にあり得る話だ。ただし、日本だけが特別ではない。そもそもNSAはスノーデンがリークした機密情報によって、世界中の首脳などを監視していたことが明らかになっているし、世界中で電子メールなどを監視できる大規模な監視プログラムの存在も明らかになっている。
もちろん、だからと言って福島の原発事故とサイバー攻撃を関連付けるのは無理がある。原発事故へのサイバー攻撃が陰謀論として語られる際には、アメリカとイスラエルが共同でイランの核燃料施設をサイバー攻撃で破壊した通称「スタックスネット」が引き合いに出される。
スタックスネットは2009年にイランのナタンズ核燃料施設で遠心分離機を破壊(一部、爆破も起きたとされる)したマルウェア(悪意ある不正なプログラム)だ。このマルウェアは確かに、イランだけでなく世界中に感染が広がった事実がある。実際に、日本でも感染は確認された。
【参考記事】サイバー戦争で暗躍する「サイバー武器商人」とは何者か
今回の著書『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』の取材で、著名なドイツ人セキュリティ専門家にインタビューしたが、その中では日本の原発についても話を聞いている。このドイツ人、ラルフ・ラングナーは、スタックスネットをいち早く解読し、その存在を世界に暴露した専門家の一人として知られる。
ラングナーは以前、「TED」の講演会に登場してスタックスネットについて解説したことがある。その動画は今もネット上で視聴することが可能だが、そのコメント欄には、福島の原発事故とスタックスネットの関連を疑う趣旨のコメントが書き込まれていた。
著者がそのことをラングナーにぶつけると、ラングナーは「(そういうコメントは)笑えるし、奇妙だよ」と、一笑に付した。そして、福島の事故とスタックスネットは全く無関係だと断言した。そして、スタックスネットはそもそも「ナタンズにある特定の2つの装置を狙ってプログラムされていたために、それ以外に何か悪さをすることはない」と話していた。