若者たちの「30年戦略」と行政長官選挙にみる香港の苦境
この時、運動を広める推進者として活躍したのが「長毛」こと梁国雄・立法会議員だ。議会や街頭デモではトレードマークの長髪をなびかせ大暴れする、急進民主派の有名人である。ところが映画で舞台裏を話すシーンでは冷静そのもの。どうやって人々の注目を喚起できるか、話題をつくり続けなければいけないと客観的に語っていた。いつもの大暴れも、そしてオキュパイ・セントラルの呼びかけも、計算されたパフォーマンスというわけだ。
今回の行政長官選挙でも梁議員はあるパフォーマンスを行っていた。それが模擬投票だ。たった1200人の選挙委員で決める選挙などまやかしだと批判。ネットと街頭で一般市民の投票を受け付け、3万7000人以上の支持を集めた場合には自分が立候補すると表明した。
選挙制度そのものを批判する、興味深いパフォーマンスと言えるのではないか。雨傘運動の流れをくむ政党「香港衆志」(デモシスト)も呼びかけ、街頭活動に加わったが、香港市民の反応は鈍く、目標を大きく下回る2万人の支持しか得られずに無念の活動終了となった。
雨傘運動のような形で圧倒的民意が示されれば、政府とて無視し得ない。しかし民意を喚起するためのパフォーマンスやイベントが乱発されれば、政治疲れ、パフォーマンス疲れが広がり、人々の注目を集めることはできない。
香港市民の"疲労度"を如実に示すのが「七一游行」の参加人数だろう。毎年7月1日の香港返還記念日に開催される「七一游行」は香港最大の抗議活動として知られているが、2014年の参加者は主催者発表51万人、警察発表9万8600人だったのに対し、2016年には主催者発表11万人、警察発表1万9300人にまで激減している。
【参考記事】「民主主義ってこれだ!」を香港で叫ぶ――「七一游行」体験記
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一国二制度堅持の50年が終わる2047年までを見据えた長期戦略
不公正な選挙制度に乗っかっても現状は変えられない。圧倒的民意を集めようにも人々は政治疲れの只中にある。ある意味絶望的な状況にも思えるが、香港の非親中派の活動家は心が折れずにいられるのだろうか。
香港の政治的状況を見ていて感じる率直な感想だ。今をさかのぼること3カ月前、2016年12月末にこの質問を新興政党「香港衆志」の中心メンバーである周庭(アグネス・チョウ、20歳)副秘書長にぶつけてみた。
すると、「香港人の政治疲れというご理解は間違っていると思います。我々の活動には多くの支持が得られています」と、質問の前提そのものを否定する回答が返ってきた。
周氏は2012年に中高生による政治団体「学民思潮」に加入。当時はまだ15歳だったが、後にはスポークスマンを務めるなど、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏とともに中心メンバーとして活躍してきた。2016年の「香港衆志」立ち上げ後も副秘書長として活躍。日本語が堪能なこともあって、日本メディアでの露出も多い。スポークスマンとしての反射神経は鋭く、質問者にぴしゃりと反論することもしばしばだ。