最新記事

シリア

シリアに安全地帯を作るなら、トランプは米軍地上部隊を派遣する必要がある

2017年2月20日(月)21時30分
フレデリック・ホフ(大西洋協議会中東センター上級研究員)

空爆で破壊されたアレッポ市内(2016年9月) Abdalrhman Ismail-REUTERS

<ISISから奪還した土地を安全地帯にするには、いま地上で戦っている民兵ではなく、高度の訓練を受けた一級の軍隊が必要だ。入っていく部隊と住民双方の犠牲を最小限にするためだ>

ドナルド・トランプ米大統領は先月、シリアに「安全地帯(safe zones)」を作ると言った。内戦で行き場を失った国内避難民を国内にとどめるのが狙いだ。既に500万人近くにのぼるシリア難民を、これ以上増やさないための方策だ。だが、安全地帯を設けることでいったい何が達成できるだろう?

トランプがまず知るべきなのは、安全地帯には陸と空からの強力な支援が必要ということだ。安全地帯を本当に避難民にとって戦場とは違う安全な場所にするのなら、この支援は不可欠だ。

6年近い内戦の間、飛行禁止区域の設定を求める声は何度もあった。だが、地上の守りはどうするかについては誰も触れたがらなかった。周囲は戦場だ。10キロ上空から住民の安全を守れるはずはないのだが、住民虐殺を厭わないバシャル・アサド大統領からいかに人々を守るかという議論はいつも、地上部隊投入の可能性が浮上するたびに止まってしまった。

ISが脅威なら民兵任せにするな

現在シリアには、安全地帯に転じられるかもしれない紛争地域がいくつかあるが、最も大きいのはISIS(自称イスラム国)が支配するシリアの中央部と東部だ。もしISISが敗北すれば、ユーフラテス川からイラクに広まで巨大な安全地帯の候補地ができる。だがそれには米政府の大きな戦略転換が必要だ。現在ISISと戦っている地上部隊はトルコのクルド分離主義組織「クルディスタン労働者党(PKK)」と、そのシリア支部にあたる民兵組織「クルド人民防衛隊(YPG)」。ISISが首都と称する町ラッカには、YPGとその他のアラブ人部隊から成る「シリア民主軍(SDF)」が攻め入る予定だ。

だが都市部での戦闘はろくに訓練も受けていない民兵向けではない。特殊スキルを備えた世界一級の軍が必要だ。町に入る部隊と住民双方の犠牲を最小限に抑えるスキルだ。

筆者はずっと、米軍率いる有志連合の地上部隊創設を提言してきた。米兵とともに、トルコやヨルダン、フランス、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーンといった国の兵士が戦うのだ。最後の3カ国は既に、対ISIS作戦に参加を表明している。それ以外の国々も仲間に入れるには相当の外交努力が必要だ。だがもし本当にISISが一部イスラム教徒を入国禁止にするほど脅威なら、なぜその脅威の無効化を外国の民兵任せにするのだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中