『ラ・ラ・ランド』の色鮮やかな魔法にかけられて
それに2人は、ミュージカル俳優にとって最も重要な仕事を見事にやってのけている。それは感情の高ぶりが歌や踊りにつながっていることを、観客に納得させること。だから2人が会話の途中で歌いだしても、あるいは散歩の途中で踊りだしても、ちっとも違和感がない。
恋と同じように、『ラ・ラ・ランド』は前半はスピーディーに展開するが、後半になるとテンポが落ちる。ミアは一向に合格しないオーディションを受けるのをやめて、一人芝居の脚本を書き始める。一方、セバスチャンは俗っぽいジャズロックバンドのキーボードを引き受けることにする。
ラスト15分の美しい魔法
セバスチャンが稼ぎはいいが、それまで熱く語っていたのとは全く違う音楽をやっていることに気付いたミアは、彼を激しく問いただす。
バンドリーダーのキース(演じるのはR&Bスターのジョン・レジェンドだ)は、自分の音楽性を追求することよりも、ファンを喜ばせるのに忙しい。彼はセバスチャンを頭の固いジャズおたくと罵倒し、死にゆくアートが生き残るには未来を見なければいけないのだと語る。「やな奴だな」と言い捨てるキースに、セバスチャンは言い返せない。
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やがてセバスチャンとミアは、別々の道を歩むことにする。悲しい失意のムードがスクリーンに充満し、ついに『ラ・ラ・ランド』もガス欠か......と観客が思い始めたとき、最後のナンバーが始まって、映画は再びトップギアに入る。
細かいことはネタばれになるから言わないでおくが、チャゼルは過去と未来、そして夢を見事に織り込んだ、ハリウッド黄金時代のミュージカルのようなゴージャスなスペクタクルを作り上げた。
それは映画の作り手としてのチャゼルの力量を雄弁に物語っている。人間の豊かなイマジネーションを表現できるのは映画だけだということを、チャゼルは知っているのだ。
彼が『ラ・ラ・ランド』のラスト15分に繰り出す色鮮やかな魔法に、観客も舞い上がるような気分になるのは間違いない。
<映画情報>
LA LA LAND
『ラ・ラ・ランド』
監督/デイミアン・チャゼル
主演/ライアン・ゴズリング
エマ・ストーン
日本公開は2月24日
© 2017, Slate
[2017年2月21日号掲載]