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中国の若者のナショナリズムは高まっていない──論文

2017年2月8日(水)19時50分
マット・シュレーダー

時の経過とともに若者が一層国家主義的になったということもなかった。少なくとも北京の若年層にはその傾向が認められなかった。より自由な風土で、遠く離れた南方の沿岸部にある広州などの巨大都市圏と比べるとかなり政府寄りと見なされてきた首都にとっては、驚くべき発見だ。

確かに、北京五輪が開催された2009年の調査では、国家主義的な傾向が一気に上昇し、若者の70%以上がどの国よりも中国籍を保持したいと回答(2007年は約50%)、若者の60%以上が中国は他のほとんどの国より良いと答えた(2007年は30%強)。だが五輪効果は一時的な現象に過ぎなかったようだ。2015年時点で、国家主義的な意見に強く同意する若者はせいぜい4人に1人と、2009年から一気に降下し、2007年の水準よりも低くなった。

【参考記事】【ダボス会議】中国が自由経済圏の救世主という不条理

北京市民の対日感情と対米感情の変化についても追跡した。中国では、長年の敵である日本はいまだに広く悪者扱いされ、アメリカは地政学的なライバルの位置づけだ。調査で日本とアメリカを肯定や否定する感情の強さを探ったうえで、日米両国の国民と中国人の間にどれほど大きな違いがあると感じているかを数値化した。

調査期間中、2001年には米軍の偵察機と中国軍の戦闘機が空中接触して中国軍機が墜落し、2012年には中国が領有権を主張する尖閣諸島を日本が国有化するなど、反米や反日感情を煽る政治的な衝突が起きた。それにも関わらず、質問への回答は概ね安定していた。日米両国に対して強く否定的な見方をし、中国との相違点が極めて大きいとした回答者の割合は、2000年からほとんど変わらなかった。

強硬なのは政治エリートか

中国事情に詳しい読者なら、比較的教育水準が高く豊かな生活を送る北京市民の感情は、あれほど巨大で多様な中国全体の国民感情を反映し得ないと気が付くだろう。ジョンストンの論文はその限界を認める一方、2008年に非常に似た方法を用いて別の学術機関が行った中国全土を対象にした調査でも、今回発表した北京とほぼ一致する結果が出たと指摘する。

これらの調査結果は、重要な政治的意味を持つ。中国が習近平国家主席の指導の下でより強硬な外交政策に舵を切ったのは、国内で高まる国家主義に呼応したからではないのかもしれない。論文は、中国の政治エリート層における国家主義的傾向のレベルなどが外交方針の転換の要因になった可能性を、より体系的に研究するよう促した。

アメリカにすれば、執拗に反米を掲げる中国人の若者が増えるのを懸念する必要はないという話かもしれない。いずれにせよ、未来の中国の指導者は、習やその後継者よりも明らかに国家主義的傾向が弱い世代から生まれる可能性がある。

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