最新記事

アメリカ政治

トランプ、入国制限大統領令の差し止めを解除できるか?

2017年2月7日(火)08時00分

 2月5日、トランプ米大統領は、イスラム圏7カ国から米国への入国を制限する大統領令に対して一時差し止めを命じた米連邦地裁の判断を覆すため、苦戦を強いられるだろう。写真は、再会を喜ぶイエメン人家族。カリフォルニア州で撮影(2017年 ロイター/Kate Munsch)

トランプ米大統領は、イスラム圏7カ国から米国への入国を制限する大統領令に対して一時差し止めを命じた米連邦地裁の判断を覆すため、苦戦を強いられるだろう。ただ、同大統領令の正当性についての最終的な判断がどちらに転ぶかはやや不確定だ。

米ワシントン州シアトル連邦地方裁判所のジェームズ・ロバート判事の決定に対するいかなる上訴も、リベラル寄りの判事で支配されている地裁に直面することになる。こうしたリベラル派判事は、同大統領令におけるトランプ氏の根拠に賛同しない可能性がある。また、現在1人空席となっている最高裁判事はリベラル派、保守派が4人ずつで真っ二つに割れている。

ロバート判事が3日下した一時差し止め命令は、全米で適用され、大統領令をさらに詳細に検討する時間を同判事に与えるだけでなく、より恒久的な命令を下す可能性があるとのシグナルを送っている。

トランプ政権は、差し止め命令の即時取り消しを求めてサンフランシスコの連邦控訴裁判所に上訴した。だが控訴裁は4日遅く、この訴えを却下。ワシントン州と政権側の双方が追加資料を提出するのを待つとしている。

一般的に控訴裁は現状を覆すことに慎重であり、今回の場合で言えば、入国制限令の一時停止を当面は維持するとみられる。

トランプ大統領率いる新政権が1月27日に打ち出した入国制限令は、渡航者が入国に際し空港で拘束されるなど大混乱を引き起こしたが、ロバート判事の一時差し止め命令が解除されれば、再び混乱を招く恐れがある。

ワシントン州の控訴裁は、他州なども同大統領令に対し提訴していることを考慮に入れる可能性がある。同州で一時差し止め命令が覆されても、どこか別の州で判事が新たに同様の決定を下し、相次ぐ上訴を引き起こす可能性もある。

控訴裁が一時差し止め命令を引き続き支持するなら、政府は直ちに連邦最高裁に持ち込むことが可能だ。しかし通常、最高裁は仮処分の段階では関与したがらないと法律専門家は指摘する。

この1年間、最高裁判事1人が空席となっており、リベラル派と保守派が4人ずつと拮抗している。政府の緊急要請が認められるには判事5人の票が必要であり、つまり少なくともリベラル派1人が支持に回らなければならないことを意味している。

「最高裁はできる限り長く当事者にならないでいられるよう、ありとあらゆる理由を探すだろう」と、テキサス大学オースティン校ロースクールのスティーブ・ブラデック教授は指摘する。

トランプ大統領は1月31日、空席となっている連邦最高裁判事に、コロラド州デンバーの第10巡回控訴裁判所の判事ニール・ゴーサッチ氏(49)を指名した。ただし、ゴーサッチ氏が最高裁判事の職に就くのは少なくとも2カ月後である。ゴーサッチ氏が米上院で承認されれば、今回のケースが今後、最高裁に持ち込まれた場合、同氏の票が判断の行方を左右する可能性はある。

また、大統領令の法的正当性について判断を下す場合、政府の主張する根拠がいかに説得力を持つかについて、法律専門家の見解は異なっている。

ミシガン大学ロースクールの憲法学者であるリチャード・プリムス教授は、入国制限令が国家安全保障上の懸念によって正当化されると裁判所を説得するのに政府は苦労するだろうとみている。

最高裁はかつて、政府が国家安全保障において取る行動の根拠を提供する必要はないとする考えを却下している。そのなかには、1971年、ベトナム戦争に関する機密報告書「ペンタゴン・ペーパーズ」の報道記事をニクソン政権が差し止めようとしたケースも含まれている。

「大統領令を支持する政府の、これまでの主張はかなり弱い」とプリムス教授は語る。

一方、ケース・ウエスタン・リザーブ大学ロースクールのジョナサン・アドラー教授は、移民に関する大統領令に関して裁判所は一般的に敬意を表するため、政府側に有利な判例もあると指摘する。

とはいえ、「計画性がなく、気まぐれに見える政策」を支持するよう裁判所が求められるのは異例な事態だという。

(Lawrence Hurley記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)



[5日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇フランシスコの葬儀は26日、各国首脳が参

ビジネス

台湾輸出受注、3月予想下回る12.5%増 中国が減

ワールド

自公両党、物価高対策でガソリンの定額引き下げ提言 

ワールド

中国、ローマ教皇死去に哀悼の意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中