溝が深まるトルコとEUの関係
トルコとEUの関係が後退した2つ目の理由は、トルコにおける2016年7月15日クーデタ未遂事件以降、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領および公正発展党が国家非常事態宣言下でクーデタ未遂に関与した人物を徹底的に排除する動きを強めたことである。
特にエルドアン大統領のクーデタ未遂に関与した人々に対して死刑の復活も辞さないという発言がEU首脳部のトルコに対する対応を硬化させた。一部の議員からは、トルコのEUの加盟交渉の見直し、もしくは制裁を課すべきだという意見が見られた。また、毎年10月から11月にかけて刊行される加盟交渉の「進捗レポート(Progressive Report) 」の内容も、2016年はトルコに対して厳しいものとなった。トルコ政府はEUの進捗レポートの受け入れを拒否している。
さらに欧州議会でオーストリアを中心に2016年11月24日にトルコの加盟交渉を凍結する決議を賛成多数で可決した。この決議は法的拘束力は持たないものの、トルコのEUに対する不信感をさらに助長させた。
エルドアン大統領は、トルコはロシアと中国が主導する上海協力機構へ鞍替えする可能性や移民の受け入れ拒否に言及するなどして、EUを牽制した。
当面は冷え切った関係が継続
トルコとEUの関係悪化は2017年に入っても改善の兆しを見せていない。
欧州議会のトルコ担当報告者であるカティ・ピリ(Kati Piri)を中心とした議員団が2月22日にトルコを訪問し、「トルコの現状は悪化している」と述べ、EU加盟交渉は前進していないことを示唆した。ピリは特に報道の自由の規制と国家非常事態宣言を名指しで批判している(Hürriyet Daily News) 。
また、2016年11月4日にテロリストに協力した罪で逮捕されたクルド系政党の人民民主党の共同党首であるセラハッティン・デミルタシュとフィゲン・ユクセクダーに対して、2月21日にそれぞれ5ヵ月の収監(デミルタシュ)、議員職のはく奪(ユクセクダー)が決定した。この決定に対してもEUは人権、自由権、議会民主主義の観点から疑問を呈している(Hürriyet Daily News) 。
このように、トルコ政府とEUの溝は徐々に大きくなっているが、両者が決定的に対立することは想定しにくい。なぜなら、EUにとって移民の防波堤となっているトルコの役割は必要不可欠だからである。
EUにとって最悪のシナリオは、トルコが防波堤の役割を止め、再び大量の移民が流入することである。
2017年は3月のオランダ総選挙、4月のフランス大統領選挙、6月のフランス国民議会選挙、9月のドイツ連邦議会選挙と各国で選挙が目白押しであり、移民の流入は各国の極右政党を勢いづかせることになりかねない。
トルコにとってもEUとの関係は悪化しても加盟交渉国としての地位を失うリスクは犯さないだろう。当面、両者の関係は冷え切りつつも継続するという考えるのが妥当である。