最新記事

核戦争

地球規模の破壊力示したトランプ──1人の人間が終末時計を進めたのは初めて

2017年1月27日(金)18時00分
ロビー・グレイマー

64年ぶりに滅亡2分半前まで進んだ終末時計 Jim Bourg-REUTERS

<「終末時計に1人の人間がこれほど大きく影響したことはかつてない」と科学者に言わしめたトランプ、その脅威とは>

 人類滅亡までの時間を象徴する「終末時計」の針が、滅亡の日とする深夜0時に近づいた。アメリカが水爆実験を行った翌年の1953年以来、最も滅亡に近い2分30秒前だ。

 米科学誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ(ブレティン誌)」が26日に発表した。時計の針を2015年から30秒進めた出来事として、核戦力の増強や近代化、気候変動、サイバー攻撃の脅威などを挙げた。さらに、ドナルド・トランプの米大統領就任も重かった。

「当委員会の決断に、1人の人間がこれほど大きく影響したことはかつてない」と、デービッド・ティトレー博士(気候科学)とローレンス・クラウス博士(理論物理学)は、米紙ニューヨーク・タイムズにそう寄稿した。「その人物がアメリカの新大統領となれば、発言の重みが違ってくる」

【参考記事】ツイートするのは簡単でも実現は困難な核軍拡

 終末時計は、世界が人類滅亡にどれほど近いかを「深夜0時」という比喩を使って示すため、核の時代が幕を開けた1947年に作られた。時計の針が深夜0時に近づくほど、滅亡の日も近づく。

 ブレティン誌の委員会は声明で、気候変動をあからさまに疑ってかかるトランプの姿勢を「懸念する」と述べた。「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)を持ち出しても、気候変動が進む現実を魔法のように消すことはできない」

トランプに警告

 国際的な象徴となった終末時計は、人類滅亡の一歩手前から、危機がほぼ遠ざかった時期にかけて、針を逆戻りさせたこともあった。冷戦期、米ソが水爆実験を相次いで行った1953年には過去最悪の「2分前」まで進んだ。だが冷戦後、米ロが軍縮条約に調印した1991年には、17分前まで針が戻った。

 突然、核戦力を強化しなければ、などと言い出すトランプの真意を見極めるのは難しい。だがこれまでのところ、メキシコの壁やオバマケアの見直しは公約どおりに進んでる。

 トランプは25日、米ABCニュースの単独インタビューで、アメリカの核兵器のコードを受け取った瞬間は「色々なことを考えた」と振り返り、「ある意味これは、すごく恐ろしいことだ」と言った。世界の何十億もの人々も同感だろう。

【参考記事】差し迫る核誤爆の脅威

 米議会では24日、2人の民主党議員が議会の承認なしに核兵器の先制使用を禁止する法案を提出した。逆に言えば今は、トランプに対してその歯止めすらない。

 ブレティン誌の専門家は、執務に本腰を入れつつあるトランプのもとに、今回の警告が確実に届けられることを期待する。「これは健全な世界の実現に向けた呼びかけだ」とトーマス・ピカリング元米国連大使は言った。「説得力と分別のあるリーダーシップを呼び込みたい」

 その間にも、終末時計はチックタックと容赦なく進む。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中