最新記事

女性問題

トランプが止めた中絶助成を肩代わりするオランダの「神対応」

2017年1月26日(木)17時20分
ケビサ・スラナ

世界で100万人以上を集めたウィメンズ・マーチで、中絶規制強化に抗議する参加者(ワシントン) Canice Leung-REUTERS

<選挙中に「中絶した女性には罰を」と言ったこともあるトランプが、早速、中絶規制の強化に乗り出した。望まない妊娠をした女性を支援するNGOへの支援をストップするという。そこに救いの手を差し伸べたのが、女性の権利では指折りのリベラル国オランダだ>

 オランダ政府は24日、世界中の女性が人工妊娠中絶にアクセスできるよう国際的な基金を設立すると発表した。ドナルド・トランプ米大統領が就任早々、中絶に反対する「プロライフ(胎児の命優先)」の立場を鮮明にしたことを受けた動きだ。

 トランプの就任直後、世界で100万人以上がウィメンズ・マーチに集結し「プロチョイス(女性の選択重視)」など女性の権利を訴えたにもかかわらず、トランプが真っ先に署名した大統領令の1つは「ギャグ・ルール(別名「口封じルール)」。中絶や家族計画の支援を行うアメリカのNGOには連邦政府の助成金支払いを禁じるもの。女性の権利や女性の健康を気遣う人々はカンカンだ。

【参考記事】トランプ「中絶した女性に罰を」と発言、批判受け一転して修正

 そこで、アメリカが支援を拒む分、自分たちがやろうじゃないかと名乗り出たのがオランダ政府だ。

レーガン、ブッシュより厳しい

 このルールは、レーガン元大統領が1984年に発表して以来、代々の共和党大統領が施行し、民主党の大統領が撤廃してきたが、トランプの大統領令は最も厳しく、アメリカ国内でなく世界各国で活動するNGOが対象。途上国では望まぬ妊娠をした女性が隠れて危険な中絶を行わざるを得なくなるなど、妊婦の命が危険にさらされる。

 米政府の支援打ち切りを補うには多額の資金が必要になる。トランプの大統領令で今後4年間に6億ドルの海外援助が打ち切られる可能性があると、オランダ当局はみている。支援の打ち切り対象は幅広い医療支援活動に及び、アメリカのNGOの活動資金は最高で95億ドル減る可能性もあると、あるNGO関係者は言う。

【参考記事】「中絶ドローン」がポーランドへ飛ぶ

「当然ながら、オランダだけではこの穴は埋められない。支援が必要だ」と、オランダのリリアンヌ・プルメン外国貿易・開発協力相はBBCに語った。

 プルメンは既に約20カ国の財団などと事前協議を行い、手応えを得たという。個人からの寄付の申し出もあった。オランダ政府が拠出する金額は明らかにしていない。

 オランダは生殖に関しては世界でも屈指のリベラルな法制度がある国として知られる。同じく女性の権利保護に厚い北欧の国々の協力を期待することになりそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中