最新記事

遺伝子

「ヒトの教育レベルが遺伝子上で劣化している」という研究結果が明らかに

2017年1月24日(火)16時30分
松岡由希子

Pete Hendley-iStock

<アイスランドの研究チームが、「より多くの時間を教育に費やす傾向にある遺伝子群が1910年から1975年までに減少している」という研究結果を発表した>

 科学技術の進歩や文明の発展によって、人類の生活は、より便利で豊かになってきた。それゆえ、ともすると「現代人は、昔に比べて優れた能力を持っている」と思いがちだが、果たして実際はどうなのだろうか。

 アイスランドの首都レイキャビクでゲノム(DNAのすべての遺伝情報)の収集・分析を行うdeCODE社の研究チームは、2017年1月、「アイスランドにおいて、より多くの時間を教育に費やす傾向にある遺伝子群が、1910年から1975年までに減少している」との研究結果を、学術雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」の電子版 で発表した。

 この研究では、1910年から1990年までに生まれたアイスランド人12万9,808名を対象にゲノムを分析。その結果、「学歴の高い人は、平均に比べて子どもが少ない」ことが明らかになった。教育を受ける期間が長くなることで、子どもを持つ時期が遅れることが原因のひとつとして挙げられており、この傾向は、男性よりも女性により強く見受けられる。

 この研究結果について、研究チームは「学歴の高い人ほど子どもが少ないため、アイスランド人が持つ遺伝子の総体、すなわち"遺伝子プール"への寄与が小さく、その結果、より多くの時間を教育に費やす傾向にある遺伝子群が希少となっている」と考察。この現象は、人類の進化をとめる"負の自然選択"とも考えられ、長期間にわたって継続すると、その影響は人類にとって深刻なものとなるおそれがあるという。

【参考記事】「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き合うべきか?

 しかしながら、このような遺伝子群のみが、ヒトの教育レベルに影響を及ぼすわけではない。この研究結果によると、知能指数(IQ)の低下は10年で約0.04ポイントにとどまっており、遺伝子群のみが教育レベルに影響を与えるケースに比べて、その低下の幅は小さくなっている。

 仮に、この研究結果の示した傾向がアイスランドに限ったものではないとすれば、人類の叡智や豊かな文明などを次世代に確実に引き継ぐため、社会的環境など、個々人が先天的に持つ遺伝子群以外の要素を、人為的に制御する必要があるだろう。とりわけ、教育システムの拡充は不可欠。教育機会の開放とその質の改善によって、遺伝子レベルで"負の自然選択"がなされようとも、社会全体の教育レベルを向上させ続けることができるかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:米テキサス州はしかで死者、ワクチン懐疑派

ワールド

アングル:中国、消費拡大には構造改革が必須 全人代

ワールド

再送米ウクライナ首脳会談決裂、激しい口論 鉱物協定

ワールド

〔情報BOX〕米ウクライナ首脳衝突、欧州首脳らの反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 7
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 8
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    「売れる車がない」日産は鴻海の傘下に? ホンダも今…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中