ニュース速報
ワールド

アングル:中国、消費拡大には構造改革が必須 全人代に注目

2025年03月01日(土)08時31分

 2月28日、ココ・ウェンさんは中国政府の補助金制度を利用し、米アップルのスマートフォン「iPhone」を販売価格の3分の2程度で買い換えた。上海の商業地区で2024年11月撮影(2025年 ロイター/Tingshu Wang)

Kevin Yao

[北京 28日 ロイター] - ココ・ウェンさん(31)は中国政府の補助金制度を利用し、米アップルのスマートフォン「iPhone」を販売価格の3分の2程度で買い換えた。ただ、同時に他の支出をカットしている。

「自分の誕生日は素敵な食事で祝う習慣だが、今年はスキップする」とウェンさん。新型コロナウイルス禍前に比べて中国人の外国旅行が減ったため、勤務している旅行代理店の給与は以前より減っている。

このため「家族の支出習慣が変わり、必需品しか買わなくなった」と話し、今では外食を控えて自炊している。

中国政府が直近で打ち出した大型の消費刺激策は、電気自動車(EV)や家電、電子機器の買い換え時に補助金を出すというものだ。しかし、他の支出とのトレードオフが起こる。

この制度によって家計は短期的な支出を増やすが、結局は補助金の出ない財やサービスへの支出を減らすことになる。消費者は家電やEVを何年も買い換えない可能性があるため、制度が利用されると将来の支出が減る恐れもある。

ANZのシニア中国ストラテジスト、シン・ジャオペン氏は「5、6年のサイクルで見れば有害かもしれない」と語った。

現在の対策はこうした弱点を持つため、当局は3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人代=国会)で、長期的な効果のある消費拡大策を打ち出すよう迫られている。

米国による関税引き上げに直面しているだけに、消費拡大の重要性は一段と増している。

中国は昨年、5%の経済成長目標を達成するため輸出に大きく頼った。しかし、関税引き上げが浮上する以前から、輸出依存戦略は過剰設備とデフレ圧力を生むとの懸念が語られてきた。

S&Pグローバルの首席アジア・エコノミスト、ルイス・クイジス氏は「中国は深刻な過剰設備問題を抱えている。これは国内で価格と利益を圧迫し、対外的には中国の輸出に対する反発を増幅させている。消費を増やせば非常に有効だろう」と語った。

クイジス氏は消費拡大の観点から、「政府が医療、教育、社会保障における役割と支出を拡大する何らかの計画を打ち出すことを切に願う」と述べ、全人代でそうした政策が浮上するかもしれないとの見方を示した。

<消費拡大の掛け声は大きく>

中国政府が発表する新たな政策はほとんど知られていないが、当局はこれまで、今年は所得、年金、医療補助の引き上げを通じて消費を「力強く」押し上げると約束している。

ただ、問題はその規模だ。

昨年の全人代で、政府は農村部を中心に最低年金を月額20元(2.76ドル)増やして123元とし、約1億7000万人がその恩恵を受けた。しかし年間の増加分は国内総生産(GDP)18兆6000億ドルの0.01%にも満たない。

中国はGDPに占める個人消費の割合が40%未満と、世界平均より約20%ポイント低い。これに対して投資の比率は20%ポイント高い。

この差を縮めるのは大仕事だ。

アナリストによると、それには税制を変更し、所得拡大を犠牲にして資本のリターンを追求する長年のインセンティブを反転させ、企業および政府部門から消費者へと資源を再配分する必要がある。

年金、医療保険、失業保険を拡充してセーフティーネットを強化し、家計が安心して支出できるようにすることも必要だ。

また、農村部と都市部の大きな格差の原因になっているとされる独特の戸籍制度の撤廃を進めれば、農村部から都会に出稼ぎに来ている労働者の購買力が高まるかもしれない。

しかし、こうした政策はどれも、短期的には安定と成長を損なうとの懸念を生じさせる。輸出セクターから資源をシフトさせ、習近平国家主席が技術分野における中国の競争力を高める上で重視する「新質生産力(技術革新)」が後回しになるからだ。

ローディアム・グループのアソシエイトディレクター、カミーユ・ブルノワ氏は「中国政府は国内消費てこ入れの緊急性を認識しているが、これまでの政策対応は、中国の経済モデルを有意に変えるのに必要な構造改革にはほど遠い」と語る。

ローディアムの試算では、消費押し上げに必要な構造的政策改革にはGDPの約30%に相当する資金が必要になる。

<債務拡大>

中国の李強首相は全人代で、2025年の成長率目標を約5%に据え置くと予想されている。短期的に経済を揺るがすような政策変更は間近に迫っていないようだ。

経済発展の新たなエンジンに切り替えることなく高成長を維持するには、債務を増やすしかない。貿易摩擦と不動産危機が続いている今は特にそうだ。

李氏は今年の財政赤字が拡大し、特別国債の発行額が過去最高に達すると発表する見通しだ。ある政策顧問は匿名を条件に「われわれは、外的なショックが経済成長に影響を及ぼすのを防がなければならない。消費拡大は、投資および貿易拡大の取り組みと併せて鍵を握る」と明らかにした。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米軍、不法移民対応で南部国境に1140人増派 総勢

ワールド

メキシコが対中関税に同調と米財務長官、カナダにも呼

ワールド

情報BOX:米ウクライナ決裂、米議員の反応さまざま

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週連続増=ベーカー・
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 7
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 8
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    「売れる車がない」日産は鴻海の傘下に? ホンダも今…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中