最新記事

日韓関係

「大統領弾劾」の余波が日韓の雪解けを直撃する

2017年1月19日(木)11時00分
J・バークシャー・ミラー(本誌コラムニスト)

Chung Sung-Jun/GETTY IMAGES

<慰安婦問題での日韓合意からわずか1年。両国関係は憎悪の悪循環に逆戻りするのか>

 韓国の政情不安が日韓関係を直撃するのは時間の問題だった。昨年末、釜山の日本総領事館前に市民団体が慰安婦問題を象徴する少女像を設置。韓国政府の対応は弱腰で、15年12月の慰安婦問題合意が早くも崩壊するのではないかと日本政府が危惧しているのも無理はない。

 日本は今のところ、韓国側の行動に慎重かつ適切に対応している。駐韓大使を一時帰国させるという合理的・外交的な方法で、韓国政府の対応に不満を示した。緊急時にドルを融通し合う日韓通貨スワップ協定再開に向けた協議も中断。政情不安の韓国に対して厳し過ぎるという声もあるだろうが、これまでのところ、日本は本格的な報復措置には至っていない。

 今後の展開はどうなるのか。日本からすれば、ソウルの日本大使館前の少女像の扱いについて「適切に解決されるよう努力」することが合意のカギであり、国内の慎重派を説得する一助となった。実際、日本は15年の合意発表後の声明に「最終的かつ不可逆的」という文言を盛り込むべきだと主張した。

【参考記事】韓国政治の未熟な実態を物語る、朴槿恵「弾劾案可決」

 朴槿恵(パク・クネ)大統領も日本との関係を「前向き」なものにし、戦略的融合性という互恵的領域に回帰すると約束。だがその朴が職務停止に追い込まれ、黄教安(ファン・ギョアン)首相が大統領代行を兼任することに。黄の影響力は弱く、韓国は日韓関係を憎悪の悪循環に逆戻りさせようとしている。

 地政学的・内政的不確実性は韓国にとっても日韓関係にとっても最悪の状況を招いている。

 朴は弾劾直前、北朝鮮の核・ミサイル開発について日本と機密情報を共有する「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」を駆け込み締結した。協定の早期締結は日韓双方の安全保障のために待望されていたが、野党は反発。慰安婦問題合意で強まっていた朴の対日政策への風当たりは、一層厳しさを増した。朴が職務停止に追い込まれ、今の韓国政府は朴の日本に対する約束とアプローチを堅持する力が低下している。

譲れない一線は示すべき

 アメリカもトランプ次期政権発足を前に政情不安と混乱を抱えており、同盟国である日韓の関係改善の促進役まで手が回らない。韓国がTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を中止もしくは延期する恐れもある。THAADについても、朴が議会で適切な審議をせずに配備を強行採決したと、野党が主張しているのだ。(中国が激しく批判している)THAAD配備の狙いは、北朝鮮のミサイルの脅威に対する韓国の防衛を手厚くすることにあるはずだが。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECBの金融政策、「漸進主義」が奏功=レーン理事

ビジネス

ECB、段階的な利下げを 慎重姿勢維持必要=独連銀

ワールド

NY南部連邦地検トップが辞任へ、FTX関連など著名

ワールド

G7、共通の見解模索 ネタニヤフ氏逮捕状発行で=伊
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 3
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 4
    テイラー・スウィフトの脚は、なぜあんなに光ってい…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 7
    日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心...エヌビ…
  • 8
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 9
    またトランプへの過小評価...アメリカ世論調査の解け…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中