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露ハッキング喜ぶ中国――トランプ・プーチン蜜月を嫌い

2017年1月17日(火)17時41分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 CCTVの「美俄"黒客門"」特集では、中国国内外のさまざまなメディアの報道を「習近平国家主席が持って行きたい方向」に切り刻んで報道しているように筆者の目には映った。

 その主な骨格は以下のようなものである(中国語には一般に敬称がないので、報道にあった通り敬称は略す)。

1. どんなにトランプがプーチンを高く評価して仲良くしようとしても、米露間にある戦略的矛盾が消えることはない。

2. ロシア側のシンクタンクは、「トランプがどんなに望んでも、新しい関係改善はあり得ない」と分析している。

3. トランプがどんなにプーチンと仲良くしようとしても、アメリカにおける世論は「反ロシア」が根強いので、有権者が米露接近を許さない。

4. アメリカ民主党のヒラリー・クリントンはロシアの妨害で大統領選に失敗したと思っている。民主党の報告書では、アメリカの民主と安全がロシアにより脅かされたとしており、トランプとプーチンが同盟を結んで結託したとみなしている。トランプは就任したとしても、議会で弾劾される可能性さえある。

5. したがって、「トランプ・プーチン」による米露接近(蜜月)はあり得ない。

結局は習近平国家主席のやっかみと願望?

 各種の報道を切り刻んで編集したこの特集からは、習近平国家主席の「トランプ・プーチン」蜜月へのやっかみと警戒が伝わってきて、「習近平・プーチン」蜜月に戻るに決まっているだろうという願望が、じんわりとにじみでている。

 それはそうだろう。

 プーチン大統領がウクライナ問題でクリミアを併合したことに伴い、オバマ大統領はロシアへの経済制裁だけでなく、G8(主要8カ国首脳会議)からも外し、G7(先進国首脳会議)にしてしまった。孤立したプーチン大統領は、当然の帰結として習近平国家主席に接近し「習近平・プーチン」蜜月が形成されていたのだ。

 だというのに「恋人」をトランプに取られそうになっており、おまけに「恋敵」のトランプは「台湾は中国の領土の一部分」とする「一つの中国」大原則を侵そうとしている。

「一つの中国」は、中華人民共和国という国家にとっては、何よりも優先される核心的利益だ。今となっては「にっくきトランプ」が、「黒客門」で追い込まれている方が、せいせいする。

 アメリカにサイバー攻撃をかけている国の一つとして、「中国」が挙げられていることなど今は忘れて、「トランプ・プーチン」蜜月の到来を阻止しようと、習近平さんは必死なのである。

 つぎに來るパワーバランスを考察するのが楽しみだ。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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