トランプとロシアの「疑惑文書」を書いた英元情報部員の正体
報道では、特定されていないある共和党の人物が、この調査の資金を提供したという。トランプが共和党の指名を受けた時点で、この人物は調査への興味を失ったが、民主党側は情報に政治的価値があると考え、新たな顧客が調査の資金提供を引き継いだ、とニューヨーク・タイムズは報じている。民主党のどのグループが動いたのかは、はっきりしていない。
イギリスやヨーロッパ各国の元情報部員は、ロシアの情報を求める企業にとって価値が高い。ロシア国内での経験も豊富で、ロシアの情報源との関係も密接だからだ。ニューヨーク・タイムズによると、スティールは90年代前半にロシアに潜伏して情報活動に従事し、イギリスに帰国後にMI6のロシア担当のトップとなった。
2009年、英外務省の元職員クリストファー・バロウズと共に、顧客企業に情報・調査サービスを提供する前述の「オービス」を設立した。バロウズは、スティールと今回の文書に関するいずれの報道にもコメントしていない。
ロシア政府は、トランプを陥れる材料を集めていたという疑惑を否定している。米国家情報長官のジェームズ・クラッパーは今週公表した声明の中で、「この文書の信憑性についてはいかなる判断もしていない」と述べている。オバマとトランプに情報を伝えたこと自体が文書の信憑性を裏付けているのではないか、という見方を否定するためだ。
スパイとして優秀
文書には、トランプの弁護士マイケル・コーエンが、ロシア外務省の国内機関である連邦交流庁の職員オレグ・ソロドクリンと、昨年8月~9月上旬にかけてプラハで面会した、という記述がある。しかしこれに関しては、双方が面会を否定。またトランプ陣営は、パスポートを調べたところコーエンはこの間国外に出ておらず、文書に出てくるコーエンと別人だと反論している。
スティールが文書の作成者だと特定されて以降、本誌の取材からはスティールの信頼性や文書の正確性に関して相反する証言が集まっている。匿名を条件に取材に応じたイギリスの調査会社の幹部は、この文書を「でたらめ」で「粗悪な代物」と見るが、同時にスティールに関しては、「優秀で信頼でき、とても実直な男」と聞いている、と語った。
英諜報機関のGCHQ(政府通信本部)の元トップ、サー・デービッド・オマンド元長官は、スティールと面識はないと断った上で、文書についてメールでこう答えた。「(私なら)本能的に注意するだろう」「よい記事の核になる材料かもしれないが、大げさに書かれている可能性もある」