最新記事

アメリカ政治

トランプとロシアの「疑惑文書」を書いた英元情報部員の正体

2017年1月13日(金)17時34分
ジャック・ムーア

 報道では、特定されていないある共和党の人物が、この調査の資金を提供したという。トランプが共和党の指名を受けた時点で、この人物は調査への興味を失ったが、民主党側は情報に政治的価値があると考え、新たな顧客が調査の資金提供を引き継いだ、とニューヨーク・タイムズは報じている。民主党のどのグループが動いたのかは、はっきりしていない。

 イギリスやヨーロッパ各国の元情報部員は、ロシアの情報を求める企業にとって価値が高い。ロシア国内での経験も豊富で、ロシアの情報源との関係も密接だからだ。ニューヨーク・タイムズによると、スティールは90年代前半にロシアに潜伏して情報活動に従事し、イギリスに帰国後にMI6のロシア担当のトップとなった。

 2009年、英外務省の元職員クリストファー・バロウズと共に、顧客企業に情報・調査サービスを提供する前述の「オービス」を設立した。バロウズは、スティールと今回の文書に関するいずれの報道にもコメントしていない。

 ロシア政府は、トランプを陥れる材料を集めていたという疑惑を否定している。米国家情報長官のジェームズ・クラッパーは今週公表した声明の中で、「この文書の信憑性についてはいかなる判断もしていない」と述べている。オバマとトランプに情報を伝えたこと自体が文書の信憑性を裏付けているのではないか、という見方を否定するためだ。

スパイとして優秀

 文書には、トランプの弁護士マイケル・コーエンが、ロシア外務省の国内機関である連邦交流庁の職員オレグ・ソロドクリンと、昨年8月~9月上旬にかけてプラハで面会した、という記述がある。しかしこれに関しては、双方が面会を否定。またトランプ陣営は、パスポートを調べたところコーエンはこの間国外に出ておらず、文書に出てくるコーエンと別人だと反論している。

 スティールが文書の作成者だと特定されて以降、本誌の取材からはスティールの信頼性や文書の正確性に関して相反する証言が集まっている。匿名を条件に取材に応じたイギリスの調査会社の幹部は、この文書を「でたらめ」で「粗悪な代物」と見るが、同時にスティールに関しては、「優秀で信頼でき、とても実直な男」と聞いている、と語った。

 英諜報機関のGCHQ(政府通信本部)の元トップ、サー・デービッド・オマンド元長官は、スティールと面識はないと断った上で、文書についてメールでこう答えた。「(私なら)本能的に注意するだろう」「よい記事の核になる材料かもしれないが、大げさに書かれている可能性もある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中