ロンドン直通の「一帯一路」鉄道で中国が得るもの
関税引き上げや通貨戦争などで、米中貿易が減少した場合、中国は「一帯一路」を利用してヨーロッパ市場に緊急避難するつもりだろう。
「アメリカの次期政権が通商問題で強硬姿勢をとるなら」、中国は着々と整備してきたインフラをテコに、「今やヨーロッパがわが国の主要な貿易相手だと胸を張れる」と、ジャンコフは言う。
中国は既にドイツのハンブルク、イタリアのミラノ、スペインのマドリードなどヨーロッパの他の都市に向かう貨物列車を運行させている。義烏からロンドンに向かう列車は200のコンテナを運べるだけで、2万ものコンテナを輸送する巨大な貨物船に比べると輸送量はわずかだ。しかし、貨物の種類によってはコスト効率で優れている。
ロンドンへの鉄道輸送は海運に比べ輸送期間が半分で済み、コストは空輸の半分で済むと、英貨物サービス会社ブルネル・プロジェクト・カーゴのマイク・ホワイトは言う。直通列車が走れば「中国はぐっと身近な貿易相手国になる」
何より「一帯一路」構想の進展を印象づけるシンボル的な意味合いが大きい。「そもそもの初めから、これはヨーロッパの中心、そしてロンドンと中国を結ぶ構想だった」と、ジャンコフはみる。
欧州企業と自治体は大歓迎
イギリスは世界の経済大国であり、2014年の輸入額は6630億ドル。輸出頼みの中国の産業にとっては、魅力的な市場だ。ここ数年、中国はイギリスに活発に投資。イギリス政府は少なくとも最近までは中国要人の訪問を鳴り物入りで歓迎していた。EU離脱で対EU貿易の減少が予測されるなか、イギリスはこれまで以上に中国と通商関係を深化させようとするだろう。
「一帯一路」の「帯」は道路や中央アジアを横断するパイプラインなど陸上輸送を指し、「路」は海のシルクロード――かつて中国の絹をローマの市場に運んだインド洋を渡る古い交易路を意味する。
そのなかでも、習政権は鉄道への投資を優先し、2020年までに5030億ドルを投じて貨物輸送網を整備する計画だと、ブルームバーグは伝えている。「鉄道は現代版シルクロードの最も重要な要素だ」と、ジャンコフは言う。
貨物列車を受け入れる都市、特に今も景気が冷え込み、インフラ投資を待望しているヨーロッパ各地の都市は新路線の開通がもたらす経済効果に大いに期待している。
中国の構想を「最も熱狂的に歓迎しているのは、今のところヨーロッパの地方自治体と企業だ」と、ファンデルプッテンは言う。かつてヨーロッパに東方の贅沢品をもたらしたシルクロード。現代のシルクロードも富をもたらしてくれるだろうか。