最新記事

中国

ロンドン直通の「一帯一路」鉄道で中国が得るもの

2017年1月5日(木)15時40分
ロビー・グレイマー

 関税引き上げや通貨戦争などで、米中貿易が減少した場合、中国は「一帯一路」を利用してヨーロッパ市場に緊急避難するつもりだろう。

「アメリカの次期政権が通商問題で強硬姿勢をとるなら」、中国は着々と整備してきたインフラをテコに、「今やヨーロッパがわが国の主要な貿易相手だと胸を張れる」と、ジャンコフは言う。

 中国は既にドイツのハンブルク、イタリアのミラノ、スペインのマドリードなどヨーロッパの他の都市に向かう貨物列車を運行させている。義烏からロンドンに向かう列車は200のコンテナを運べるだけで、2万ものコンテナを輸送する巨大な貨物船に比べると輸送量はわずかだ。しかし、貨物の種類によってはコスト効率で優れている。

 ロンドンへの鉄道輸送は海運に比べ輸送期間が半分で済み、コストは空輸の半分で済むと、英貨物サービス会社ブルネル・プロジェクト・カーゴのマイク・ホワイトは言う。直通列車が走れば「中国はぐっと身近な貿易相手国になる」

 何より「一帯一路」構想の進展を印象づけるシンボル的な意味合いが大きい。「そもそもの初めから、これはヨーロッパの中心、そしてロンドンと中国を結ぶ構想だった」と、ジャンコフはみる。

欧州企業と自治体は大歓迎

 イギリスは世界の経済大国であり、2014年の輸入額は6630億ドル。輸出頼みの中国の産業にとっては、魅力的な市場だ。ここ数年、中国はイギリスに活発に投資。イギリス政府は少なくとも最近までは中国要人の訪問を鳴り物入りで歓迎していた。EU離脱で対EU貿易の減少が予測されるなか、イギリスはこれまで以上に中国と通商関係を深化させようとするだろう。

「一帯一路」の「帯」は道路や中央アジアを横断するパイプラインなど陸上輸送を指し、「路」は海のシルクロード――かつて中国の絹をローマの市場に運んだインド洋を渡る古い交易路を意味する。

 そのなかでも、習政権は鉄道への投資を優先し、2020年までに5030億ドルを投じて貨物輸送網を整備する計画だと、ブルームバーグは伝えている。「鉄道は現代版シルクロードの最も重要な要素だ」と、ジャンコフは言う。

 貨物列車を受け入れる都市、特に今も景気が冷え込み、インフラ投資を待望しているヨーロッパ各地の都市は新路線の開通がもたらす経済効果に大いに期待している。

 中国の構想を「最も熱狂的に歓迎しているのは、今のところヨーロッパの地方自治体と企業だ」と、ファンデルプッテンは言う。かつてヨーロッパに東方の贅沢品をもたらしたシルクロード。現代のシルクロードも富をもたらしてくれるだろうか。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中