ついていく上司を間違えて前途を断たれないようにするには?
ローランドは起業家を顧客とする企業の会計士だ。まだ若手だったころから、彼はある著名な起業家とのミーティングに同席することがよくあった。「テレビで見たことがあるほど有名な人だったから、最初はびくびくしていた。でも彼は、出席者のなかでいちばん下っ端の私にしょっちゅう意見を求めてきた。時々電話してきて世間話をしたり、私には理解できないことについて長々と語ったりするようにもなった。彼が一方的に話すだけだったが、最後にはいつも『ありがとう。とても助かったよ』と言われた。私はほとんど何も話していなかったのに」
求められているのはアイデアでも経験でもなく、客観的視点と話を聞いてもらうこと、そんな場合もある。
相手の目と耳になる
知は力なり。それなのに地位が高くなるほど、周囲の人の本音を知ることは難しくなる。誰が本当は何を考え、感じているかを伝える窓口になれば、権力者にとってあなたの価値は上がる。もちろん、権力者にすりよっていると思われる危険はある。自己保身を目的に、ゴシップや悪口を言う人はどこにでもいるから。だが正しい動機を持つ限り、自分なりの新鮮な意見を伝えるのは賢い戦略になるだろう。
大規模なコールセンターに勤務しているケリーの職場は、異様なほど退職者が多かった。経営陣は社内アンケートを実施したが回答する者はほとんどなく、報奨制度の見直しを始めていた。「職場に嫌気がさす人が多いのはなぜか、私にはわかっていた。部下に高圧的な態度を取る女性がいて、彼女のせいでフロア全体が嫌なムードになっていた。もうひとつの原因は、ばかばかしい話に聞こえるけれど、社員食堂のメニュー。私がその職場で働き始めてから2年間、メニューはずっと同じ。近くに店も何もなかったから、ほかに選択肢がない。だからアンケートに回答するなんていう遠回しなことはせずに、上の人と直接話がしたいと頼んで、問題点をはっきり伝えた。今では食堂のメニューも少しはましになったし、嫌われ者の女性の態度も変わった。経営幹部からは時々、職場の現状に対する意見を聞かれる。私は愚痴をこぼすより、問題を解決しようとするタイプだから」
「遺産」になる
成功した人間には、いずれ「遺産」について考え始めるときがくる。部下や業界、その外のさらに広い世界に、どんな記憶を残していくか。それを意識したとき、人は「社会に何かを還元したい」という欲求に駆られる。慈善事業に熱心になったり、これまでは避けていた役目を引き受けたり。彼らの奉仕精神にあふれる行動のリストに、もうひとつ項目を加えてあげてはどうだろう? あなたのキャリアのスポンサーになる、という使命を。
ライバルになる恐れはないが、確かな将来性がある人材を育てるのは、賢い時間の使い方――影響力のある人がそう判断する可能性は大きい。成功者は誰かを庇護したがるものだから。庇護してもらうには、勇気を出して頼むことだ。多くの組織が、大金を投じてメンタリングやコーチングのプログラムを実施しているが、その実態は単なる相談会に近い。内部の事情や情報を知り、その影響力でキャリアアップを助けてくれる人物に、積極的なスポンサーになってもらうほうがずっといい。
『ここぞというとき人を動かす自分を手に入れる
影響力の秘密50』
スティーブン・ピアス 著
服部真琴 訳
CCCメディアハウス