ロヒンギャ問題でスー・チー苦境 ASEAN内部からも強まる圧力
度重なる国軍の人権侵害から隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民の受け入れをバングラデシュ政府が公式には拒否しているため、海路ラカイン州を脱出、イスラム教徒が多数住むマレーシアやインドネシアを目指すボートピープルもASEAN域内の喫緊の課題として浮上している。
こうした背景の中で12月19日、ミャンマーの最大都市ヤンゴンでASEAN非公式外相会議が開かれた。ホスト国ミャンマーのスー・チーは「ロヒンギャ問題」を素通りすることは許されない状況であり、「極めてデリケートな問題」であるとしたうえで「(解決には)時間が必要」との立場を示した。
会議では「国軍による人権侵害」を懸念する声があがり、スー・チーも「事実関係の調査」を明言したという。国際社会だけでなく、いわば「身内」でもあるASEAN加盟国内からも追究の狼煙が上がるに至り、スー・チーもロヒンギャ問題に取り組まざるを得なくなった形だ。
仏教徒や国軍に強い反ロヒンギャ感情
2016年の国家顧問兼外相就任以来、スー・チーはタイ国境周辺の少数民族との和解、民主活動家や学生運動家などの政治犯の釈放など国民と国際社会の期待に応えるべく民主化を進めてきた。ところがロヒンギャ問題に関する限りスー・チーは「大方の予想を裏切って静観を続けるというより、国軍の人権侵害を黙認している状態」(タイ英字紙記者)と批判にさらされている。
背景には国民の多数を占める仏教徒、僧侶団体、強硬姿勢の国軍の支持を失いたくないとの政治的立場の弱さがあると指摘されている。「野にあって反軍政の立場の時は何事も恐れず果敢に理想に邁進したスー・チーだが、権力者の立場になるとあちらを立て、こちらに配慮、とまさに政治家に変質してしまった」(ミャンマーウォッチャー)というのだ。マレーシアのナジブ首相の批判もASEAN内のそうした空気を反映したものと言える。
インドネシア主導で仲介工作
ナジブ首相に次いでインドネシアのジョコ・ウィドド大統領がロヒンギャ問題で積極的に動いている。12月6日、レトノ・マルスディ外相をミャンマーに派遣してスー・チーとロヒンギャ問題で直接協議をさせた。会談でインドネシア側は「ロヒンギャ問題は人権問題であり、イスラム教徒でもある彼らをインドネシア政府は支援する方針である」と伝えた。ジョコ大統領はミャンマーがインドネシアと同様の多民族国家であり、多様性を許容することが重要であるとの姿勢を強調することで問題解決の糸口を見出そうとしている。