『ガール・オン・ザ・トレイン』は原作を超えて救いを感じさせるミステリー
変幻自在なトーンの勝利
欠点がないわけではない。セクシーなメガンの描き方は紋切り型だ(メガンは少なくとも4カ所でセックスをし、「電車にはねられると衝撃で服が脱げるそうよ」などというせりふを言わされる)。荒唐無稽などんでん返しもある。
だが、映像は見事。撮影監督のシャルロッテ・ブルース・クリステンセンは特殊なレンズを使い、機材を揺らすことで、酔ったような映像を実現した。
実験精神旺盛でジャンルに縛られないテイラー監督は、陰鬱なミステリーを時折ホラー映画に変身させる。ある場面では不協和音をバックに、レイチェルがすさまじい形相でメガンに飛び掛かる。赤ん坊を抱いたレイチェルの影が霧に浮かび上がるシーンもある。
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『ガール・オン・ザ・トレイン』には、物事がさらに悪い方向に転ぶような不吉な感覚が付きまとう。その予兆は原作では不快でしかないが、映画では逆の効果を持った。
私たちは自分で思うよりも善人なのでは? 直感は信じるに値するのでは? そんなことを問い掛けているように思える。
女優陣の輝くような魅力のせいか、あるいは変幻自在な映画のトーンに深い闇は似合わないのか。すさみ、壊れた人々がただ落ちていく原作と違い、映画はかすかな光を見せて終わる。
[映画情報]
THE GIRL ON THE TRAIN
『ガール・オン・ザ・トレイン』
監督/テイト・テイラー
主演/エミリー・ブラント、レベッカ・ファーガソン
日本公開は11月18日
© 2016, Slate
[2016年11月22日号掲載]