最新記事

リーダーシップ

リーダーは「データ」より「目的意識」を重視せよ

mediaphotos-iStock.

<複雑さと不確実性が増す現代のビジネス環境では、新しいリーダーシップが必要だ。これからは、数値データに基づく戦略的なリーダーシップよりも、"人間性のある"リーダーシップが求められる>

 現代のビジネスの喫緊の課題の1つに、「リーダーシップに人間性を取り戻す」ことがある。ある業界トップクラスの製薬会社とグローバルな舞台で成長めざましい金融機関は、2年以上にわたりこの課題に取り組んでおり、具体的な成果が出はじめている。

 人間はもともと、何事にも「意味」や「意義」を見つけようとする生き物だ。人類は、目的意識や共感、価値観の共有といった高次元の感情を重視することによって存続してきたともいえる。ところが私たちは、測定し定量化できる情報こそが最重要と錯覚しながら20世紀の大部分を過ごしてしまったようだ。

 2008年の金融危機(リーマンショック)の主因となった複雑きわまりない金融商品は、不良債権を解消するための数理モデルのはずだった。しかし、このモデルは間違っていた。このモデルにヒューマンな意図や意義が入り込む余地はなかった。唯一入り込めたのは欲と利己心だけだった。

【参考記事】頭が良すぎるリーダーの、傲慢で独りよがりな4つの悪い癖

 前世紀の工業化時代の世界観は、人や組織をバラバラの閉じたブラックボックスと定義していた。リーダーシップに人間性を取り戻すには、まずそうした世界観から脱する必要がある。この世界観は、インプットからアウトプットまでが直線で結ばれ、それで完結するというものだ。そこでは「戦略」が金科玉条のようになり、人間的な意志などほとんど価値をもたない。

 ビジネス環境は複雑さと不確実性を増している。変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、あいまいさ(Ambiguity)からなるVUCAが、時代のキーワードとなっている。従来の直線的なリーダーシップではとうてい太刀打ちできなくなっているのは確かだ。

新しいリーダーシップに3つの罠

 デューク・コーポレート・エデュケーションの最近の調査では、多くのCEOたちが、VUCAの中でも複雑性がいちばんの難問だと明言している。だが、複雑性は決して新しい現象ではない。言うまでもなく地球の生態系は複雑だ。私たちは太古の昔から変わらずに複雑な世界に生きているのだ。複雑性が問題として捉えられるのは、20世紀に私たちが複雑性を無視し、世界を直線的に整理し管理できるものと、都合よく考えていたからだ。

 私たちがそれで整理できていると思い込んでいた直線的な壁が、目に見えて崩壊してきている。たとえばソーシャルメディアの登場で顧客相互のやりとりが可能になっている。21世紀に住む私たちは、複雑性をもった世界を前提に新しいリーダーシップを考え直さなければならない。

 しかし、人間性を取り戻した新しいリーダーシップを築く道すがらには、次の3つの罠が潜んでいる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米政権、航空機・部品輸入を調査 追加関税の可能性

ワールド

G7、インドとパキスタンに直接対話要請 外相声明

ワールド

アングル:軍事費拡充急ぐ欧州、「聖域」の軍隊年金負

ワールド

パキスタン、インドに対する軍事作戦開始と発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中