最新記事

リーダーシップ

リーダーは「データ」より「目的意識」を重視せよ

2016年11月15日(火)18時41分
スダンシュ・パルスル、マイケル・チャベス ※編集・企画:情報工場

(1)組織の罠

 ほとんどの企業などの組織が、複雑性が表面化した新しい現実への備えができていない。従来は世界は直線的であるという前提で、部門や職務、階層、上司部下の関係などきれいに整理してきた。しかし現代に必要なのは柔軟性をもって機敏に動くことであり、ボトムアップでイノベーションのアイデアがもたらされることである。だが、いまだにほとんどの企業で社員たちを固定的な地位であったり、従順さ、協調性などで評価している。

(2)認知の罠

 実は人間の脳はもともと複雑性に対応するようにはできていない。目の前に迫った危険に瞬時に反応することはできるが、複雑な問題の中に潜むわずかなサインを読みとるのは苦手だ。複雑であいまいなものごとに対しては、「よくわからない」と脅威を感じる。そしてそれを解消するために、それまでに確立された信念や戦略をかたくなに守ろうとする。

(3)権力の罠

 20世紀の階層組織は、階層の中での地位を権力に結びつけ、上位の階層が情報と財源をコントロールすることで成り立っていた。現代では階層そのものに対してその存在が疑問視されるようになってきている。だが、私たちに、この「うまくいっていた仕組み」を手放す気がどれだけあるか、疑問の残るところだ。

【参考記事】部下の話を聞かない人は本当のリーダーではない

 これらの罠は、いずれも「受け身のマインドセット」を生み出す。このマインドセットがあると、自ら考えることをしなくなる。以前から変わらない感情的反応パターンに従うか、これまでの経験で学習した通りに行動する。

「見えなくなっている目的意識」を表に出す

 1982年9月、シカゴで鎮痛解熱剤「タイレノール」服用による死亡事故が起きた。第三者(現在も犯人不明)による意図的なシアン化合物の混入が原因だった。異物混入は製造元のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の工場で発生したのではなかったが、同社は米国内のすべての店頭から製品を回収し、生産を停止した。当時のCEO、ジェームズ・バークは、株価が急落すると知りながら製品を回収するという困難な状況に対処した胸の内を後に聞かれて、「正しいことをしたまでだ」と、さらりと答えた。

 こうした「正しい行為」は、良いリーダーシップを象徴する。そこには「なぜ私たち1人ひとりは、この世界に存在するのか?」と自問することで生じる目的意識が存在する。VUCAの世界でうまく立ち回ることのできるリーダーは、こうした目的意識を広めるのに長けている。複雑性を巧みに手なずけられるのだ。

 私たちのクライアントのある銀行の技術サポート部門は、仕事のストレスが原因となって退職者が相次ぐという問題を抱えていた。部門長は、ある日のチームミーティングで暗闇を怖がる4歳の息子の話をした。子ども部屋のドアを少し開けておくと、廊下の光で安心するのだという。そして彼はこんなことを言ったのだ。「サポートを依頼する人は不安で緊張している。そこで私たちが廊下の光のような安心感を提供する。それが私たちの存在理由だ。技術的な問題を解決することじゃないんだ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ロシアのルクオイル、米カーライルへの海外資産売却で

ワールド

台湾軍、中国の海上侵攻想定し演習 無人機とミサイル

ビジネス

日立、通期純利益7600億円に上方修正 対米投融資

ビジネス

ドイツ銀行、25年純利益は07年以来の高水準 自社
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    人民解放軍を弱体化させてでも...習近平が軍幹部を立…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    またTACOった...トランプのグリーンランド武力併合案…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中