最新記事

映画

じわじわ恐怖感が募る、『ザ・ギフト』は職人芸の心理スリラー

2016年11月8日(火)10時20分
エイミー・ウエスト

©STX PRODUCTIONS, LLC AND BLUMHOUSE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

<監督・脚本・主演をこなす新星エジャートンの並外れた才能に圧倒される『ザ・ギフト』>(写真:若い夫婦の前に不器用な男が現れ、平穏な日常がゆっくりと狂い始める)

 血も流れないし、ホラーじみた仕掛けもない。ジョエル・エジャートンの初監督作品『ザ・ギフト』は心理的な要因だけで観客の背筋を凍り付かせる。

 学生時代の恥ずかしい記憶、人と人との関係性の移ろいやすさ、誰もが心の奥に抱える残虐性......エジャートンは鮮やかな手際でそれらを結び付ける。

 殺人鬼や悪魔が大暴れするホラーを期待していたら、がっかりするだろうが、先入観なしで見たら斬新な手法に舌を巻くはずだ。

【最新記事】デキちゃったブリジットの幸せ探し

 サイモン(ジェイソン・ベイトマン)とロビン(レベッカ・ホール)は若い夫婦。ロサンゼルス近郊の閑静な邸宅に引っ越して新生活を始める。

 こまやかな気遣いで互いを支える2人は理想的なカップルのようだ。ところが、サイモンが高校時代の同級生ゴード(エジャートン)にばったり出会ったときから、何かが狂い始める。さほど親しくなかったのに「旧交」を温めたがるゴードに、サイモンは迷惑顔だ。

 偶然の出会いの後、サイモンとロビンの家の前に次々に贈り物が置かれるようになる。毎回カード付きでゴードのメッセージが添えてある。サイモンはゴードのあだ名が「変態」だったことを思い出し、押し付けがましい振る舞いにいら立ちを隠さない。一方、ロビンは人をバカにする夫に対して軽い反発を感じ、ゴードはただ自分たちと友達になりたいだけなのだと好意的に解釈する。

 だが薄気味悪いディナーに招いたり、贈り物がどんどん高価なものになったりと、ゴードの奇妙な振る舞いはエスカレートするばかり。ついに夫婦は彼との付き合いを断つことにした。

 ゴードが寄こした謎めいた謝罪の手紙がきっかけで、ロビンは過去に夫とゴードの間に何かあったのでは、と疑いだす。やがて事実が明らかになる。虚偽に覆われた正体不明の人物はゴードだけではなかった。

終盤はやや急ぎ過ぎか

 エジャートンがメガホンを取るのはこれが初めてだが、13年公開のスリラー『ディスクローザー』では主演に加え脚本を担当している。翌年の『奪還者』でも原案に参加しており、ストーリー作りはお手の物だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン最高指導者、トランプ氏の攻撃警告に反発 「強

ビジネス

GPIF、25年度以降も資産構成割合維持 国内外株

ビジネス

フジHD、中居氏巡る第三者委が報告書 「業務の延長

ビジネス

米利下げは今年3回、相互関税発表控えゴールドマンが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中