スー・チー氏の全方位外交と中国の戦略
これらに対してネットでは、「習近平が外国の首脳と会談すると怖い。われわれ国民の税金をばらまくことしか考えてないからだ。日本は中国のように腐敗で巨額の金額が消えていかないし、貧富の格差も中国ほどひどくないだけ、まだ良いんじゃないか?」という趣旨のコメントが少なからず見られた。
ミャンマー国防軍ミン・アウン・フライン総司令官の訪中
スー・チー氏が1日、羽田空港に到着したそのころ、一足先に北京空港に着いていたミャンマー国防軍ミン・アウン・フライン総司令官は、人民大会堂で習近平国家主席と会談を行っていた。その様子は、中央テレビ局CCTVで大々的に報道された。
新華網にはCCTVの動画とともに文字化した文章もあり、また中国の中央行政省庁の一つである国防部(防衛省に相当)のホームページなど、多くの政府側ウェブサイトに掲載された(「ミン・アウン・フライン」は中国文字で「敏昂莱」と書く)。
習近平は国家主席および中央軍事委員会主席としてミン・アウン・フライン国防軍総司令官と二人で会い、人民大会堂の客人を迎える部屋で、二人が中央に座って(随行者は脇に座る形で)会談していることが見て取れる。その直前に会談した台湾・国民党の洪秀柱主席との「そっけない扱い」とのギャップが印象的だった。
会談で習近平主席は「両国は軍事協力を発展させていき、双方の共通利益を守っていくべきだ」などと述べた。
それに対してフライン国防軍総司令官は「ミャンマー政府は中国政府との二国間関係を重要視しており、継続的な友好関係を構築していく方針だ。ミャンマーと中国の国境地域の安全を守るためにも、中国政府との友好関係を維持し、中国をサポートしていく」旨の回答をしている。
フライン国防軍総司令官は、1日午後、中央軍事委員会の許其亮副主席(空軍上将)とも会い、軍事面における話し合いを行っている。
スー・チー氏訪日と同時に習近平主席と会談するという形を取ったのは、中国の戦略なのか、あるいはミャンマーの、すなわちスー・チー氏の思惑なのか。
どちらが先かは別としても、「双方の思い」が一致したことは確かだろう。
日本は対ミャンマー戦略で、スー・チー氏のこういった側面も、きちんと押さえておく必要があるだろう。
(なお、中国政府側の見解に対する筆者のコメントは、長くなり過ぎるので、ここでは控えた。こういう事実があったことをお伝えするのに留めることとする。)
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。