最新記事

ミャンマー

スー・チー氏の全方位外交と中国の戦略

2016年11月8日(火)07時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 なぜなら、武装勢力問題だけではなく、ミャンマーにとって中国は最大の貿易国で、今年7月末統計で、中国がミャンマーと協定を結んだ投資額の総額は254億米ドルに達し、これはミャンマーへの外資全投資額の40%に当たるだけでなく、さらに「米欧日」などによる投資額の3.5倍に達するとのこと。新華網など、多くのメディアが、この分析を伝えている。

 だから最初の訪問国として中国を選んだのだと、中国側は言う。

 一方、訪中を最優先すれば、アメリカや日本は「何としても、もっと有利な条件を示して、ミャンマーを惹きつけておかなければと考えるだろう」という思惑が、スーチー氏にはあったものと考えていいだろう。

 気品があって美しいスー・チー氏のイメージは、フィリピンのドゥテルテ氏の場合とはかなり異なるが、しかし「日米中」を天秤に掛けたバランス外交には、類似のものがある。

 中国もまた、日米に負けてはならじと、8月16日の訪中の際は、党内序列ナンバー1の習近平主席だけでなく、ナンバー2の李克強首相も会談をして歓迎の意を尽くした。

 まるで訪日前のダメ押しでもするかのように、10月16日にもインドのゴアで、習近平主席はスー・チー氏と首脳会談を行っている。この時の中国における華々しい報道の仕方から、いかに力を入れていたかがうかがえる。

スー・チー氏訪日に対する中国の分析

 スー・チー氏が11月2日、安倍首相と会談し、日本側から今後5年間で官民合わせ8千億円規模の支援を得ることを取りつけたことに関して、CCTVは「メディアの焦点」という番組で、以下のように分析している。

 ●日本は自国の財政難を顧みず、中国と競争するために、中国が投資した国の後を追って無理して投資している。日本の国家予算の3分の1から半分が国債発行により賄われているというのに。

 ●日本の支援の質は低い。支援の90%が円借款で、日本産の製品を購入しなければならないという制限が付いている。

 ●日本の対ミャンマー貿易額はわずか18億ドルだが、中国の場合は147億ドルで、日本の数倍。これに勝てるはずがない。

 ●中国がアフリカに投資すると日本もアフリカに、フィリピンに投資するとフィリピンにという形で、日本は中国を追いかけてきているが、これは冷戦構造的考え方で、日本は必ず失敗する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の高層マンション群で大規模火災、36人死亡 行

ワールド

米特使がロに助言、和平案巡るトランプ氏対応で 通話

ビジネス

S&P500、来年末7500到達へ AI主導で成長

ビジネス

英、25年度国債発行額引き上げ 過去2番目の規模に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中