最新記事

2016米大統領選

【対談(前編):冷泉彰彦×渡辺由佳里】トランプ現象を煽ったメディアの罪とアメリカの未来

2016年10月24日(月)15時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Jonathan Ernst-REUTERS

<今回の大統領選を振り回した「トランプ現象」。その背景にあるのは、経済格差への怒りなのか、鬱屈した白人労働者層の不満の爆発なのか、それともセンセーショナリズムを煽ったメディアなのか?>

 11月8日の投票日まで残り2週間余り、共和党のドナルド・トランプ候補と民主党のヒラリー・クリントン候補の対決も最終盤を迎えた今年のアメリカ大統領選。当サイトで共にコラムを連載し、今回の選挙で多くの現地リポートも執筆している、アメリカ在住の冷泉彰彦氏と渡辺由佳里氏の2人に、対談形式で大統領選を振り返ってもらった。今月14日、東京のウェブ編集部とニュージャージー州プリンストンの冷泉氏の自宅、マサチューセッツ州ナンタケット島に滞在中の渡辺氏をチャットアプリで結んで対談を実施した。

***


トランプ現象の背景には何があったのか

――今回の大統領選は、これまでの常識が通用しない異常な選挙だった。その最たるものが「トランプ現象」ではないだろうか。トランプがここまで躍進したその背景に、アメリカ社会のどのような変化があったと考えられるか?

【渡辺】大きな要素としては、白人の労働者階級(特に男性)の不満が噴出したことがある。しかし多くの識者も指摘しているが、「経済状況が悪く、仕事がなく、収入がないから」というのとは違う。長年に渡って保守派が支持拡大のために、選挙戦略として「反知性」「反エスタブリッシュメント(既成政治)」の感情を煽ってきた。またソーシャルメディアが普及してトランプがうまくツイッターを活用したこともある。複数の要素が重なって「トランプ現象」という大きなうねりになった。

【冷泉】私の周辺のトランプ支持層を見ていると、いわゆる「貧困層」とは違う。例えば引退したブルーカラーで、年金生活をしているような人もいる。大工さんとか、配管工といった自営業の人もいる。おそらくこうした、自分が「知的」とは考えていない人たちが、かつては額に汗して働けばアメリカ社会で尊敬されていたのに、「自分たちはもう尊敬されていない」と感じている。そんな白人労働者層の現状への不満が、トランプ現象の根底にはある。

<参考記事>最後のテレビ討論の勝敗は? そしてその先のアメリカは?

【渡辺】トランプ支持者には労働者階層だけでなく中流層、富裕層の白人も含まれている。非白人の移民などの活躍によって、こうした人たちのプライドが失われたということがある。また「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」という縛りによって、自分たちの言いたいことが言えなくなったという不満もある。暴言を吐くトランプに、「正しいことを言っているのに何が悪い」と同調している。

 彼らは、トランプがメキシコとの国境に壁を作ったりはしない、仕事も与えてくれないことは知っているが、いま「いい思い」をしている人々に中指を立てて「ファックユー」と言いたい。そうしたとても原始的な感情に訴えかけている。

【冷泉】まさに「原始的」な感情で、身体的というか、本能的というか......。それだけにトランプのカネとか女性への貪欲さも、コアな支持者からするとむしろバイタリティに見えてしまっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中