苦境にある台湾メーカーの未来を「台湾エクセレンス」に見た
OEMからオリジナルブランドへ
数々の製品を眺めているだけでも楽しい展示会だったが、加えて全体を通してみると台湾経済の変革が印象的だった。第一にOEMで成長してきた企業が独自ブランドへの転換を図っている点だ。会場の台湾貿易センター・スタッフによると、B2BからB2Cへの転換が台湾全体の課題になっているという。OEMが盛んな台湾ではB2Bが中心となってきたが、中国への製造拠点移転が進むなかで産業空洞化が問題となってきた。高い付加価値を持つオリジナルブランドで製造業復興を図る狙いだ。台湾エクセレンスはその突破口の一つとして位置づけられている。従来は台湾での展示が中心だったが、ここ数年は日本、米国、インドネシア、ベトナム、インドなど海外での展示会が増えている。
第二に中国以外の市場への傾倒だ。2008年から2016年にかけての馬英九政権で台湾は中国と急接近した。積極的に中国との友好姿勢を打ち出すことで、中国市場成長の恩恵にあずかろうという狙いだ。しかしリーマンショックの影響もあり、経済成長率は以前の4~6%から1~2%台にまで低下している。中国との接近によるバラ色の経済成長という馬英九前総統の公約は結局実現することはなかった。中国政府自身も経済的"恩恵"が台湾の一般市民にまで届いていないことを問題視し、台湾青年の中国本土就業を促進するなど新たな経済的取り込み策を検討していると報じられている。
また中国への依存は政治リスクにもつながる。実際、今春の蔡英文政権発足以来、政府間・企業間・研究者間の交流が制限されるなど、政治的変化がダイレクトに経済関係に悪影響を及ぼしている。こうしたなかで、中国以外の市場を開拓する重要性が再認識されている。
【参考記事】台湾ではもう「反中か親中か」は意味がない
この変革が成功するかどうかはまだ未知数だ。OEMからオリジナルブランドへという流れにせよ、中国以外の市場開拓という方針にせよ、決して目新しいものではない。例えば蔡英文政権の東南アジア重視政策は「新南向政策」と名付けられている。陳水扁総統時代の"旧"南向政策の焼き直しというわけだ。新味がないと言ってしまえばそれまでだが、一発逆転ホームランを約束した馬英九前政権と違って、蔡英文政権は空手形を切らずに着実な政策を選択したとも言える。困難な目標だが、台湾エクセレンス in 東京で展示された魅力的な製品の数々は台湾の未来を変えることができるのだろうか。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。