最新記事

シリア

「ホワイト・ヘルメット」を無視するノーベル平和賞の大罪

2016年10月13日(木)10時30分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

Aleppo Media Center

<シリア内戦という、いま世界が直面する最大の人道危機に光を当ててアサドとプーチンを糾弾する機会を、ノーベル賞委員会はみすみす逃した>(画像はアレッポの空爆から救出された5歳の男の子)

 先週、ノルウェーのノーベル賞委員会は、戦乱が続くシリアで人命救助活動に携わるボランティア団体「ホワイト・ヘルメット」にノーベル平和賞を授与すると発表した。命の危険を冒して危険地帯に入り、空爆で破壊された建物の瓦礫の中から多くの人を救い出してきた勇気ある人々だ。

 おめでとう、ホワイト・ヘルメット......おや、ちょっと待て。まさか! ノーベル賞委員会が今年の平和賞に選んだのがコロンビアのサントス大統領だって? 反政府ゲリラとの停戦に合意し、内戦終結に向けて努力している(けれど、今のところうまくいっていない)という理由で?

 嘘だろう? いや、本当だ。

 ノーベル賞委員会は、(またしても)過ちを犯したのである。

 ホワイト・ヘルメットの行動は称賛に値する。彼らが救出した人は4万人以上。救急車の中で血だらけで呆然と座る姿を写した写真が世界に衝撃を与えた5歳の男の子オムラン・ダクニシュもその1人だ。

【参考記事】シリア停戦崩壊、米ロ関係かつてない緊張へ

 今回のノーベル賞委員会の決定次第で、いま世界が直面している最大の人道危機に改めて光を当てることになったはずだ。シリアのアサド大統領とロシアのプーチン大統領の独裁者コンビ、そしてテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の行動により、シリアの人権状況は悲惨を極めている。

 シリアでは、国の人口の半分に当たる約1100万人が難民・避難民となり、約50万人が命を落とした。シリア人の一家が安全を求めて命からがら海を渡る姿は、見慣れたものになってしまった。

オバマ授賞に続く失態

 サントスがやったこと、そしてやろうとしていることは、もちろん称賛に値する。それを後押しすべきなのは間違いない。

 しかし、今回ノーベル賞委員会は、シリア北部のアレッポなど、反政府勢力支配地域で暮らすシリア人の窮状に世界の関心を引き付ける機会をふいにしてしまった。多くの子供たちの命を奪う空爆作戦に手を染めているプーチンの顔に泥を塗ることもできただろう。

 アレッポは政府軍に包囲されており、昨年後半以降は政府軍とロシア軍のミサイルや樽爆弾が降り注ぐ日々が続いている。空爆を受けた地区では建物が倒壊し、多くの人が生き埋めになる。ホワイト・ヘルメットがいなければ、空腹や傷の悪化により死を待つしかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中が24日会合、貿易摩擦緩和目指し=トランプ氏

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機

ワールド

トランプ氏、ロのキーウ攻撃を非難 「ウラジミール、

ビジネス

米関税措置、独経済にも重大リスク=独連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中