最新記事

フィリピン

ドゥテルテ比大統領の「米兵器削減」は暴言止まり? 実行困難の理由

2016年10月6日(木)11時00分

 10月4日、ドゥテルテ大統領(写真)が、米国製兵器購入を減らしてロシアと中国から購入するとの自身の脅迫を実行に移すのであれば、フィリピンは大きな障害に直面することになると専門家は指摘する。マニラの陸軍本部で撮影(2016年 ロイター/Romeo Ranoco)

ドゥテルテ大統領が、米国製兵器購入を減らしてロシアと中国から購入するとの自身の脅迫を実行に移すのであれば、フィリピンは大きな障害に直面することになると専門家は指摘する。

そうなれば、米国との協力がごく当たり前となっている同国の軍事再訓練も影響を受けることになる。

マニラで4日演説したドゥテルテ大統領は、米国がミサイルや他の兵器をフィリピンに販売したがらないが、ロシアと中国からは容易に提供できると言われたと述べた。

自身が進める麻薬撲滅運動に対し懸念を表明している米国に腹を立てた同大統領は、オバマ米大統領を「ろくでなし」と呼び、米国との合同軍事演習を終わりにすると脅し、フィリピンの元宗主国である米国と、その地政学的ライバルであるロシアと中国を比べるようになった。

米当局者は、ドゥテルテ大統領の発言を重視せず、南シナ海で領有権の主張を強める中国の動きに対抗すべく、近年強化に努めていたフィリピンとの長い同盟関係に重きを置いている。ホワイトハウスは4日、関係修正について、ドゥテルテ政権から正式に何も伝えられていないことを明らかにした。

世界各国の軍事費を調査しているスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、米国は、フィリピンへの最大武器輸出国となっている。

中国の台頭を受け、軍事と外交をアジアにシフトさせているオバマ政権の下、米国とフィリピンは過去2年間で軍事的な結びつきを強め、演習や訓練だけでなく、米国の艦船や航空機がフィリピンを訪れる回数も増やしている。

フィリピンは、他国が米国製の兵器や軍備を購入するのを援助する米国のプログラムを受けており、アジア太平洋地域では最大の受益国となっている。2015会計年度は、5000万ドル(約51億4000万円)の資金提供を受けていた。

米国製の兵器やシステムへの依存は、フィリピン軍がもし中国製やロシア製システムへの変更を望んだ場合、指揮管理系統の一新を迫られることになると、マニラのデ・ラ・サル大学教授で、フィリピン下院のアドバイザーを務めたこともあるリチャード・ジャバード・ハイダリアン氏は指摘。新たなテクノロジーで再構築するには何年もかかるとの見方を示した。

SIPRIのデータによると、フィリピンの2015年の軍事費は39億ドルで、2010年以降、ほぼ毎年増加しているという。

<深い関係>

なかでもロシアは高性能の兵器システムを提供可能だろうが、フィリピンは現在使用する米国製との相互運用性を考慮に入れなければならないと、米海軍大学の中国海洋問題専門家であるライル・ゴールドスタイン氏は指摘する。

「こちらの国からレーダー、あちらの国からミサイルといったように買うことなどできない。兵器は連動しなくてはならないからだ」

またゴールドスタイン氏によれば、フィリピン人将校の多くが米国で教育を受けており、自国と米国の軍事文化を深く結びつけているという。

米国とフィリピンの軍事関係は兵器販売だけでなく、訓練やメンテナンス支援にまで及ぶ。

ロシアと中国は、包括的な訓練や支援の提供において、米国ほど定評がないと、今年初めまで米国防総省の副次官補(南・東南アジア担当)だったエイミー・シーライト氏は指摘する。

ドゥテルテ大統領の狙いは恐らく、たとえそれが周縁的なものであっても、米国との軍事協力を修正する意思があるというシグナルを中国に送ることだと、前述のハイダリアン教授はみている。

同教授によると、そのような修正には、南シナ海で毎年実施している米比合同軍事演習の場所変更や、米軍によるフィリピン国内の軍事基地使用拡大への拒否が考えられるという。

またドゥテルテ大統領は、米国からもっと有利な価格で軍備を入手できるよう自身の立場を強化しようとする可能性もあると専門家は指摘する。ロシアや中国製の兵器は通常、米国製よりも安いからだ。

(Yeganeh Torbati記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)



[ワシントン 4日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中