ICCを脱退する南アフリカはもうマンデラの国ではない
法律上、今回の決定は直ちに影響力を持つものではない。脱退の時期について、ICCの設立規定を定めた国際条約「ローマ規定」は、国連事務総長への通知から1年後と定めている。つまり、南アフリカは2017年10月20日までICCの加盟国だ。脱退の意向を示したとはいえ、今後1年間はICCにおける法的義務を負うことになる。
さらに、南アフリカの国会からの事前の承認もないまま、脱退を通知をする法的権限が政権側にあるのかどうかも疑問だ。このような国際条約が法的拘束力を持つためには国会での批准が必須であることを前提にすると、一度発効した法的拘束力を解消できるのも国会しかない、というのが自然な流れだ。国際的な批判を受けて、南アフリカ政府も21日にはICC脱退の是非を問う法案を近く国会に提出すると発表した。
独裁者の歓心を買う
はっきりしないのは政治的な先行きだ。南アフリカ政府は脱退の理由について、ICCによるバシル逮捕の要求は外交特権を認める同国の法律と相容れないと指摘した。だが南アフリカの人権活動家によれば、ICC脱退はひとえにジェイコブ・ズマ大統領の政治的事情のせいだと言う。ズマは相次ぐ汚職スキャンダルや社会不安に加え、8月に実施された統一地方選で与党ANCの得票率が過去最低に終わるなど、並々ならぬ試練にさらされている。
ズマには自身が抱える数々の国内問題から、国民の批判の矛先を背けたい思惑がある。ICC脱退の決断が多くの国民を怒らせるのは間違いないが、汎アフリカ主義で反植民地主義のコアな有権者にはアピールできるとズマは踏んでいる。さらにアフリカの他の独裁者たちの歓心を買うこともできる。国内の支持が衰えるほど、外国からの支持はますます重要だ。
マンデラが象徴する南アフリカは、その理念で名をはせた。ズマの南アフリカは、何から何までその反対だ。