最新記事

アフリカ

ICCを脱退する南アフリカはもうマンデラの国ではない

2016年10月24日(月)18時43分
アントン・ドゥプレシ(南ア安全保障研究所専務理事)、サイモン・アリソン(マーベリック紙アフリカ特派員)

 法律上、今回の決定は直ちに影響力を持つものではない。脱退の時期について、ICCの設立規定を定めた国際条約「ローマ規定」は、国連事務総長への通知から1年後と定めている。つまり、南アフリカは2017年10月20日までICCの加盟国だ。脱退の意向を示したとはいえ、今後1年間はICCにおける法的義務を負うことになる。

 さらに、南アフリカの国会からの事前の承認もないまま、脱退を通知をする法的権限が政権側にあるのかどうかも疑問だ。このような国際条約が法的拘束力を持つためには国会での批准が必須であることを前提にすると、一度発効した法的拘束力を解消できるのも国会しかない、というのが自然な流れだ。国際的な批判を受けて、南アフリカ政府も21日にはICC脱退の是非を問う法案を近く国会に提出すると発表した。

独裁者の歓心を買う

 はっきりしないのは政治的な先行きだ。南アフリカ政府は脱退の理由について、ICCによるバシル逮捕の要求は外交特権を認める同国の法律と相容れないと指摘した。だが南アフリカの人権活動家によれば、ICC脱退はひとえにジェイコブ・ズマ大統領の政治的事情のせいだと言う。ズマは相次ぐ汚職スキャンダルや社会不安に加え、8月に実施された統一地方選で与党ANCの得票率が過去最低に終わるなど、並々ならぬ試練にさらされている。

 ズマには自身が抱える数々の国内問題から、国民の批判の矛先を背けたい思惑がある。ICC脱退の決断が多くの国民を怒らせるのは間違いないが、汎アフリカ主義で反植民地主義のコアな有権者にはアピールできるとズマは踏んでいる。さらにアフリカの他の独裁者たちの歓心を買うこともできる。国内の支持が衰えるほど、外国からの支持はますます重要だ。

 マンデラが象徴する南アフリカは、その理念で名をはせた。ズマの南アフリカは、何から何までその反対だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

政府、総合経済対策を閣議決定 事業規模39兆円

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ビジネス

アングル:日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心

ビジネス

三菱UFJ銀、貸金庫担当の元行員が十数億円の顧客資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中