英EU離脱の「勝者」はニューヨーク
「離婚」の形が決まらず、金融機関はビジネスを見通せない
理由の1つは規制にある。EUの巨大官僚機構が投資銀行業務をヨーロッパに移転させるための事務処理にうまく対応できるのかがはっきりしない。これは、国民投票前に金融業界がブレグジットに反対していた理由の1つでもある。
現在、イギリスとEUとの「離婚」がどういう形になるかが決まっておらず、それゆえ金融機関も、イギリスやヨーロッパでのビジネスがどうなるかを見通せない。ニューヨークであれば、そんな心配とは無用だ。
もう1つの理由は文化的なものだ。コンサルティング会社のZ/Yenグループが発表する世界金融センター指数(GFCI)によれば、ロンドンは金融業界で働く人が住みたい街ナンバー1である。2位はニューヨークだ。フランクフルトは19位、パリは29位と大きく差をつけられている。
また、国民投票前にブレグジットへの賛否を表明しなかったシンクタンクのオープン・ヨーロッパは、金融機関にとってはヨーロッパ大陸よりも、ニューヨークやシンガポール、香港のほうが移転に望ましいとする報告書を17日に発表した。
さらに理由を挙げれば、離脱によりイギリスは、商品やサービス、人の移動の自由が保障されたヨーロッパ単一市場へのアクセスを失う可能性がある。ドイツなど多くのEU構成国はアクセスを制限したいと考えているが、そうなればイギリスの金融機関にとって、5億人の消費者を抱える市場でのビジネスが困難になる。
果たして、シティはどうなるのか。イギリスの中央銀行であるイングランド銀行のジョン・カンリフ副総裁は10月初旬、金融機関がアメリカに移転する可能性について聞かれ、端的にこう答えている。「ニューヨークに移る可能性があるか? もちろんだ。すでにニューヨークにあるのだから」
【参考記事】「ハードブレグジット」は大きな間違い?