「ハードブレグジット」は大きな間違い?
Darren Staples-REUTERS
<EUからの移民も規制も完全排除して経済を後回しにする、強硬(ハード)路線をイギリス国民は本当に望んでいるのか>(写真:来年3月末までにEU離脱交渉を始める考えを表明したメイ首相)
ブレグジット(イギリスのEU離脱)について先行きがずっと不透明だったイギリスが、ようやく展望を見いだしたようだ。
メイ首相は先週、来年3月末までにEU側との離脱交渉を開始すると明言。イギリスとEUの新たな経済的・政治的関係についての話し合いだが、交渉期間は原則2年と決まっている。交渉がまとまろうが決裂しようが19年のEU離脱は変わらない。
大きな課題となるのはイギリスが今後、EUとどんな関係を望むかだ。大半のイギリス人にとってEU加盟国としてのメリットは、EU市場で英企業のビジネス展開が容易なこと。デメリットはEU加盟諸国から労働者が流入すること、そして英国内の規定にまでEU本部から口出しされることだ。
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ジョンソン外相をはじめとするブレグジット支持者は、離脱後もイギリスはEUの恩恵を享受できると有権者に断言している。だがEUの各国政府は、何の義務も果たさずに特典だけを利用しようとするのは虫のいい話だと見ている。そのため、英政府はEUとの交渉の中で何を優先していくのか見極める必要がある。
メイ率いる保守党は、「ハードブレグジット」と「ソフトブレグジット」と呼ばれる2つのシナリオのどちらを選ぶかで二分している。ソフト路線の優先事項は、EU圏との貿易とEU市場への参入だ。代わりに移民に関してEUからの指示を一部受け入れ、EUの規定も大幅に維持する。非加盟国のスイスやノルウェーも同様の取り決めを結んでいる。
経済的影響は説明されず
一方のハード路線は、EUとは完全に手を切り、イギリスの国境管理と国内規定に関して一切干渉させないというものだ。ただしこの路線を貫くと、EU圏内での無関税貿易という特権を失うことになる(現在、イギリスの輸出の約4割をEU向けが占めている)。
ハード路線を取れば、ロンドンが金融の中心地としての地位を失う可能性も高い。ロンドンを拠点とする金融機関が従来どおりEU圏内で自由にサービスを提供できなくなるため、欧州での本拠地をイギリスから他国へと移す動きが加速しかねない。既に日本の金融機関1社が動きだしているとの報道もある。