オルタナ右翼とゲーマーゲートと呼ばれる事件の関係
オルタナ右翼の前史、ゲーマーゲート
なぜオルタナ右翼とミソジニー、反フェミニズムが結びついたかというと、少なくとも部分的にはオルタナ右翼の由来が関係している(もう一つ別の経路もあるがそれは別稿で)。実はオルタナ右翼には、(異論もあるが)前史が存在する。それが、ゲーマーゲート(GamerGate)と呼ばれる事件だ。
ゲーマーゲートの経緯に関しては日本語で書かれた文献がすでにいくつかある。ほぼ中立的な立場からは例えば4Gamer.netの記事があり、ゲーマーゲートに肯定的な立場の記事としてはこの記事、批判的な立場の記事としては(はてな匿名ダイアリーだが)この記事がある。どれも一読をお勧めする。また、RationalWikiには詳細な年表がある。年表を見ると分かるが、とにかく短期間にいろいろなことが起こった事件で、非常にややこしい。
私なりに大ざっぱにまとめると、一応の発端は2013年に遡る。ゾーイ・クインという女性のゲーム開発者が自作のゲームを発表し、そのゲームは大手のゲーム批評メディアで好意的に取り上げられた。ところがしばらく経った2014年8月、クインの元ボーイフレンドであるイーロン・ジョニ(Eron Gjoni)という人物がブログで彼女の私信等を暴露し、クインのゲームが好意的な批評を得たのは、彼女とKotakuなど大手ゲーム批評メディアの記者の何人かが性的関係を持っていたからだ、と主張したのである(後から出てきた話を総合すれば、関係を持っていたのは事実だが、それで提灯記事を書いたという事実はないようだ。ちなみにこのKotakuは、ピーター・ティールが支援したハルク・ホーガンの訴訟で有名になったGawker Mediaの系列である)。
これを受け、IRC(Internet Relay Chat)や日本の2ちゃんねるに影響を受けてアメリカで設立された匿名掲示板サイトの4chanではクインを糾弾する書き込みが激増し、しまいには彼女のSNSやSkype、Dropbox等のアカウントがクラックされたり、住所や電話番号、居場所などのプライベートな情報が晒されたり(このような個人情報の晒し上げ攻撃のことを文書(doc)にちなんでドクシング(doxing)と呼ぶ)、はては殺害予告やレイプ脅迫がされるというところまで事態はエスカレートした。
クインは大手のゲームメーカーに所属しているわけではない、いわゆるインディーズのゲーム開発者で、別に件のゲームが大ヒットした、というわけでもないようだし、きっかけとなった出来事自体は、率直に言って、だから何だという程度の話ではある。攻撃への参加者としてはそれなりに言い分もあるのかもしれないが、オンライン・ハラスメントが激化したのは、結局クインが女性だったから、というのは否定できないと思う。
ただ、事態がエスカレートしていく過程で、例えば、ゲーム批評メディアの記者がクインのようなゲーム作者のクラウドファンディングに出資していたとか、あるいはゲーム関係の有力記者(ゲーム業界へ転職した元記者も含む)が多数参加する業界横断的なメーリングリスト(GameJournoPros)が存在し、この問題への対処についても内々に口裏合わせをしていた、というような、ジャーナリズム倫理的にグレーな話が暴露されていった。こうしてゲーム業界と大手のゲーム・ジャーナリズムという、ゲーム業界のエスタブリッシュメント(?)の癒着と腐敗が表面化していったわけである。後追いでいろいろ読んでいくと、個人的にはそこまで大層な話ではなかったような気がしなくもないのだが(私がゲームメディアに期待する水準が低すぎるのかもしれない)、とにかく彼らはそう思ったのだ。