タイはもはや安住の地ではない──中国工作員に怯える中国政治難民
昨年11月にUNHCRの難民審査待ちだった第三国への亡命希望の中国人2人の消息が突然途絶え、最近中国・重慶の収容所に拘束されていることが分かった。タイの潜伏先から拉致され、強制連行されたとみられている。この2人についてはUNHCRも中国当局、タイ当局に抗議したが、事態は改善されていない。
支援団体などはUNHCRなどに対し難民手続きの迅速化と申請手続き中の一時保護などを訴えている。にも関わらず最近、UNHCRの手続き中の中国人の行方不明事案が確認できただけでも4件5人と増加していることなどから、支援団体はUNHCRバンコク事務所の内部に中国公安の工作員ないしそのスパイが潜り込んでいる可能性を指摘、注意喚起も行っている。
工作員が増加し、政治難民の拉致が増えている背景には、習近平政権の中国共産党指導部による反体制派や人権活動家に対する締め付けや、報道統制などの一環だとの見方が有力だ。中国人政治難民や人権活動家の失踪事件は香港やミャンマーでも起きており、ミャンマーでは中国人活動家が不法滞在容疑で禁固2年の実刑を受けて服役している。
中国当局からの自由を求めて国外に逃れた政治難民を「まるで自国領土のように拉致し、連れ去る」という中国工作員の振る舞いをタイ政府は野放図に許すべきではなく、政治難民と不法滞在者を峻別して対応すべきだろう。タイは自由と民主主義の「微笑みの国」なのだから。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など