最新記事

人権問題

タイはもはや安住の地ではない──中国工作員に怯える中国政治難民

2016年9月7日(水)17時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

 しかし、2014年5月の軍によるクーデター以降、軍政はタイ国内の不法滞在者に対する姿勢を硬化させ、特に不法滞在労働者の摘発には力を入れ始めた。また政治絡みの難民も「これ以上の面倒を抱えたくない」として強制送還させる方針に転換した。2015年7月までに中国政府の圧制から逃れてきたとするウイグル人100人以上が中国政府の求めに応じて強制送還させられたのはその一例だ。

【参考記事】なぜバンコク爆発事件でウイグル族強制送還報復説が浮上しているのか

 こうしたタイ軍政の方針転換は、タイ国内にある中国人政治難民ネットワークにも危機感を与えており、難民同士や支援団体の中にも「誰が信用出来て、誰がスパイ・工作員なのか。何が安全で、何が危険なのか」という疑心暗鬼が急速に広がっている。

タイ脱出も叶わず、過酷な状況

 グーグルマップを頼りに密林地帯を経由して最近タイに脱出してきた江蘇省の人権活動家は「尾行、監視、盗聴などに十分に神経を使うように。人込みでは大きな声で話しをせず、携帯電話はプリペイドにして滅多に使わない。ホテルは頻繁に変え、帰路も毎日変えること」と、支援団体から厳しい注意を受けたという。こうした注意からタイで中国難民が現在置かれている過酷な状況を肌で感じたとしている。

 タイの状況変化に「タイ脱出」を試みた中国人一家もいた。2月29日夜、1歳の幼児を含む子供2人、大人7人の中国人一行がタイ・パタヤから10万ドルで用意した船に乗り込んでタイ脱出を図った。目的地はオーストラリアかニュージーランドで現地到着後に難民申請をして政治亡命するはずだった。ところが悪天候のため船の操縦が不能になり、パタヤ海岸から約200キロの海上で漂流、タイ海上警察に救助を求めた。一行は難民カードを所持していたがタイ海上警察は「不法滞在者」として全員を拘留、船長は「人身売買」容疑で逮捕されてしまった。

工作員・スパイに怯える8000人の難民

 国連関係機関は具体的な数字を明らかにしていないが、タイ国内の支援団体などによると現在タイ国内には中国から逃れてきた政治難民が約8000人いて、難民申請の手続きを待っているという。

 この8000人をターゲットにする工作員とみられる中国人は「観光客を装ってタイに入国している。加えてタイ在住の中国人をスパイとして雇っている可能性がある。タイ語が流ちょうに話せる、タイに友人や親族のネットワークがあるという中国人すら疑わなくてはならない状況」と事態は深刻だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ湾で石油タンカー供給逼迫、アジア・欧州勢が

ワールド

英食品価格、イラン戦争で年内10%上昇も 業界団体

ビジネス

アングル:スペースXの宇宙データセンター、MS「海

ビジネス

前場の日経平均は反落、トランプ演説に失望 不透明感
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経済政策と石油危機が奏でる「最悪なハーモニー」
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 6
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 7
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 8
    カンヌ映画祭最高賞『シンプル・アクシデント』独占…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中