タイはもはや安住の地ではない──中国工作員に怯える中国政治難民
しかし、2014年5月の軍によるクーデター以降、軍政はタイ国内の不法滞在者に対する姿勢を硬化させ、特に不法滞在労働者の摘発には力を入れ始めた。また政治絡みの難民も「これ以上の面倒を抱えたくない」として強制送還させる方針に転換した。2015年7月までに中国政府の圧制から逃れてきたとするウイグル人100人以上が中国政府の求めに応じて強制送還させられたのはその一例だ。
【参考記事】なぜバンコク爆発事件でウイグル族強制送還報復説が浮上しているのか
こうしたタイ軍政の方針転換は、タイ国内にある中国人政治難民ネットワークにも危機感を与えており、難民同士や支援団体の中にも「誰が信用出来て、誰がスパイ・工作員なのか。何が安全で、何が危険なのか」という疑心暗鬼が急速に広がっている。
タイ脱出も叶わず、過酷な状況
グーグルマップを頼りに密林地帯を経由して最近タイに脱出してきた江蘇省の人権活動家は「尾行、監視、盗聴などに十分に神経を使うように。人込みでは大きな声で話しをせず、携帯電話はプリペイドにして滅多に使わない。ホテルは頻繁に変え、帰路も毎日変えること」と、支援団体から厳しい注意を受けたという。こうした注意からタイで中国難民が現在置かれている過酷な状況を肌で感じたとしている。
タイの状況変化に「タイ脱出」を試みた中国人一家もいた。2月29日夜、1歳の幼児を含む子供2人、大人7人の中国人一行がタイ・パタヤから10万ドルで用意した船に乗り込んでタイ脱出を図った。目的地はオーストラリアかニュージーランドで現地到着後に難民申請をして政治亡命するはずだった。ところが悪天候のため船の操縦が不能になり、パタヤ海岸から約200キロの海上で漂流、タイ海上警察に救助を求めた。一行は難民カードを所持していたがタイ海上警察は「不法滞在者」として全員を拘留、船長は「人身売買」容疑で逮捕されてしまった。
工作員・スパイに怯える8000人の難民
国連関係機関は具体的な数字を明らかにしていないが、タイ国内の支援団体などによると現在タイ国内には中国から逃れてきた政治難民が約8000人いて、難民申請の手続きを待っているという。
この8000人をターゲットにする工作員とみられる中国人は「観光客を装ってタイに入国している。加えてタイ在住の中国人をスパイとして雇っている可能性がある。タイ語が流ちょうに話せる、タイに友人や親族のネットワークがあるという中国人すら疑わなくてはならない状況」と事態は深刻だ。