ドゥテルテ大統領下のフィリピン麻薬戦争、死者の山に口閉ざす人々
9月5日、マニラ市内のスラム街では、22歳の輪タク運転手Eric Sisonさんの遺体が棺に横たわり、その近くをヒヨコが行き交っている。地元の伝統にのっとり、彼を殺害した者の良心をつついて責める象徴として放されたのだ。写真はSisonさんの棺。マニラ首都圏パサイ市で8月撮影(2016年 ロイター/Erik De Castro)
マニラ市内のスラム街では、22歳の輪タク運転手Eric Sisonさんの遺体が棺に横たわり、その近くをヒヨコが行き交っている。地元の伝統にのっとり、彼を殺害した者の良心をつついて責める象徴として放されたのだ。
ソーシャルメディアで先月拡散された携帯電話の動画は、Sisonさんが殺害された瞬間を捉えたものだと言われている。現地の当局者によれば、このとき警察は、マニラ首都圏のパサイ市で麻薬密売人を捜索していたという。
新聞の報道によれば、この動画は近隣の住民が撮影したもので、「撃たないでくれ。降伏する」と叫ぶ声に続き、銃の発砲音が聞こえる。
ボロボロの家屋のあいだを走る悪臭を放つ水路の脇に置かれた棺の近くには、「Eric Quintinita Sisonのために正義を」と訴えるポスターがあり、手書きで「過剰殺戮。Ericのために正義を」との文言が添えられている。
わずか2カ月前にロドリゴ・ドゥテルテ氏がフィリピン大統領に就任し、麻薬密売業者に対する戦いと、広く蔓延する覚せい剤メタンフェタミンの乱用撲滅を宣言して以来、こうした殺害事件が急増している。しかし、このポスターのような抗議の印はめったに見られない。
ドゥテルテ大統領の血なまぐさい粛清作戦を阻む者はほとんどいない。
7月1日以降に殺害された人の数は、先週2400人に達した。約900人は警察による摘発作戦のなかで殺されたものであり、残りは「捜査中の死亡」だ。人権活動家によれば、これは自警団による超法規的な殺害を婉曲に表現した言葉だという。
今回の取材では、ドゥテルテ大統領の執務室からは直接のコメントを得られなかった。
<攻撃される反大統領派>
ロイターの取材で明らかになったのは、殺害事件が圧倒的に多いため、警察の内部監察局(IAS)と人権委員会(CHR)による調査もごく一部にしか及んでいないこと。そして、目撃者が恐怖のあまり進んで証言しようとしないため、多くの事件を不当な殺害であると立証する望みがほとんど無いことである。
他方、大統領の麻薬撲滅政策は広く支持されており、度重なる流血が恐怖感を煽っていることとあいまって、市民社会からの反発は抑えつけられている。超法規的な殺害に抗議するために先日マニラで行われたろうそくを灯して祈る集いには、ほとんど誰も参加しなかった。