最新記事

対中外交

日中両国に利したG20と日中首脳会談

2016年9月7日(水)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 ネットユーザーたちも、よほどこの違いが気になったものと思われる。後者のURL(こちら)にあるブログのタイトル「中日首脳会談は安倍に下馬威を与えた」の中にある「下馬威」は、春秋戦国時代から使われている言葉で、「機先を制する恫喝」のこと。出会い頭にハッタリをかませて、どちらが強いかを瞬時に相手に見せつけて勝負し、そのあとに恫喝と策謀を始める戦術を指す。

 中韓、中英に関しては、対談の部屋にも国旗があるだけでなく、グリーンが置いてあるなど装飾も異なることは、メイ首相との対談の場パククネ大統領との対談の場と見比べてみても、一目瞭然だ。

 安倍首相との対談の場には、マイクと水があるだけである。

 中国の武将が昔から使う脅し「下馬威」を、安倍首相に見せつけるという戦略を練ったものと思う。

 今回は習主席から歴史問題が出されたなかったというメリットはあったものの、尖閣周辺の中国漁船転覆で中国漁民の命を日本の海保に救われながら、そのお礼を言わないどころか、相変わらずの「下馬威」戦術を使うとは、大国としてあまりに度量が小さいではないか。何を怖がっているのかと言いたくなる。

それでも成果はあった

 それでも成果はあった。

 日中首脳は「対話を促進していくこと」と「東シナ海の平和と安定を維持していくこと」で一致し、「海空連絡メカニズムの早期運用に向け協議を加速させる」とした。前者は、互いの理念なので具体性に欠けるところはあるかもしれないが、後者は一刻も早く実現させてもらわないと困る。万が一にも不測の事態になった場合には取り返しがつかない。

 なぜ前者に関しては「理念」に過ぎないとするかというと、まさにG20真っただ中の4日、そして日中首脳会談が行われていた5日と連続して、尖閣周辺の接続水域では中国海警局の公船4隻が堂々と侵入していたからだ。

 これまでのコラムで何度も書いてきたが、習主席は南シナ海に関する仲裁裁判所の判決に対して、「常に行動で示していくことが肝心で、言葉などで言っても、それは歴史の資料として紙くずになるだけで何にもならない」という趣旨の発言をし、「既成事実を常態化させることが肝要だ」という基本戦略を打ち立てているからだ。

 それを尖閣にも適用していく。

「尖閣(釣魚島)は中国の領土」という主張を一寸たりとも譲歩しないのと同様、これは変わらないだろう。

 事実、あれだけ南シナ海問題で中国包囲網が形成されるのを警戒している最中でも、9月3日、なんと南シナ海のスカボロー礁で中国海警局の公船、埋め立て用と見られる漁船、軍の運送船など、計10隻の中国船が確認されている。フィリピン政府はこの暴挙に対して、「明らかに基地を作ろうとしていて憂慮する」と抗議したが、これらの中国側の動きの背景にはアメリカがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中