最新記事

銃規制

黒人射殺事件の連鎖を生む元凶は

2016年8月29日(月)16時00分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)、マーク・P・マッケナ(ノートルダム大学法科大学院教授)

 それを強く思い知らせたのが、先週テキサス州ダラスで起きた警官銃撃事件だ。バトンルージュとセントポールの事件に抗議するデモの現場で発生した銃撃事件により、警官5人が射殺された。この悲惨な事件は、警察の仕事がより難しく、より危険になっていることを浮き彫りにしている。

 警官たちはしばしば、自らの命を危険にさらす状況に身を置く。そして、89年の連邦最高裁判決が述べているように、「緊迫し、不確実で、急速に変化する状況下で、目の前の局面に対処するためにどの程度の武力を用いる必要があるかを瞬時に判断しなくてはならない」。

 状況が不確実であるために、警官には、武力行使の判断が完全に正しいことまでは要求されていない。法律は、警官やその他の人たちに危険が及ぶという判断が合理的なものであれば、相手の命を奪いかねない武器の使用も容認している。

 問題は、裁判所が合理性の判断で警官に大きな裁量を認める場合が多いことだ。この問題は、銃の拡散によりますます甚だしくなっている。

【参考記事】人種分断と銃蔓延に苦悩するアメリカ

 州法により民間人の銃携行へのハードルが低い州では、誰もが銃を持っていると警官が判断することがより合理的になる。その結果、警官の銃使用が合理的と認められる基準がどんどん緩くなっていくのだ。

 一つ一つのケースを見れば、フィルの事件のように、警官の判断が合理性を欠くと思えるかもしれない。しかし全体としては、警官が市民と接する際に命の危険を感じても、非合理とは言いにくくなってきている。

相互の不信感を取り除け

 バージニア大学法科大学院のレーチェル・ハーモン教授が指摘するように、警官に瞬時の正しい判断を期待することには無理がある。

 ハーモンは次のように述べている。「銃携行の規制が緩ければ、警官は銃を所持した市民と遭遇する確率が高くなる。町で接触する誰が銃を持っていても不思議でない。職務質問で停止させた車の運転手が銃を持っている可能性もある。警官が恐怖心を抱き、発砲する過程に、銃の存在が及ぼしている影響をもっとよく考えるべきだ」

 銃の拡散がさらに進めば、銃を持った市民と警官が接触したときに、警官が恐怖心に駆られて慌てて行動し、その結果として市民の命が奪われるケースはますます増えるだろう。今回起きたダラスの警官銃撃事件は、警官が抱く恐怖心を一層強めることになりそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中