最新記事

南シナ海

インドネシアが南シナ海に巨大魚市場──対中強硬策の一環、モデルは築地市場

2016年8月29日(月)16時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

 その「波高し」の現場で今年3月19日、中国違法漁船を摘発しようとしたインドネシアの海洋取締当局の監視船に対し、中国海警局の船舶がレーザーを照射し、そして体当たりで摘発を妨害するという事態が発生した。こうした非常事態にインドネシアは正規の海軍大型艦艇を現場海域に急派して警戒を強化した。6月17日には違法操業中の中国漁船に対し、海軍艦が警告したもののこれを無視して逃走しようとしたため海軍艦が威嚇発砲して拿捕、乗組員を拘束した。現場にいた中国海警局の船は相手が正規の海軍艦では手が出せなかったという。

 こうして拿捕した各国の違法漁船は、インドネシア政府が「みせしめ」として無人状態を確認した後に海上で爆破、撃沈させるという強硬手段をとっている。

【参考記事】中国密漁船を破壊せよ インドネシアの選択

産業振興の目玉は「築地魚市場」

 こうした海上での一触即発のバトルの一方で、インドネシアのジョコウィ政権はナツナ諸島の産業振興、開発にも力を入れようとしている。ハーグ仲裁裁判所の裁定を受けて「今後中国がさらに活動を活発化させる懸念がある」として、インドネシアは同諸島海域での軍事力増強と同時に「ナツナを地域の一大漁業拠点とする構想」と硬軟両様の対策を打ち上げたのだった。

 具体的には年間漁獲量100万トンを取り扱う巨大市場ゾーンの建設を目玉として、冷凍保存設備が完備し水産加工工場を併設した約1,000平方メートル規模の魚市場を開設、地域の流通拠点にするというものだ。政府の試算では現状では周辺海域の水産資源の約9%しか活用できておらず、これを限りなく向上させる計画だ。

 構想を具体的に説明したリザル・ラムリ海事調整相は「ナツナには東京の築地魚市場のような魚市場をつくりたい」と語っており、築地魚市場をモデルにしたナツナ魚市場の誕生が期待されている。

 外国人観光客のビザ発給要件を緩和あるいは撤廃して、2020年の東京五輪を目指して観光振興を進めている日本に中国人に加えて最近は多くのインドネシア人やマレーシア人、タイ人が訪れている。中でも「ツキジ・フィッシュ・マーケット」は東京を訪れる東南アジアからの観光客の人気スポットであることから「モデルとして築地魚市場の名前が出たものとみられる」(在ジャカルタ日本人記者)という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中