最新記事

海外ノンフィクションの世界

歯磨きから女性性器切除まで、世界の貧困解決のカギは「女性の自立」にある

2016年8月25日(木)17時40分
松本 裕 ※編集・企画:トランネット

© Smile Squared/Stephanie Bosch(『WOMEN EMPOWERMENT 100』より)

<女性をエンパワーすることが貧困の削減につながると、『WOMEN EMPOWERMENT 100』の著者で活動家のベッツィ・トイチュは言う。驚きに満ちた100種類にも上るその具体的な方法とは?>

 日本のニュースであれ海外のニュースであれ、最近は「貧困」という言葉を目にしない日はないと言ってもいいかもしれない。そのくらい貧困は大きな社会問題であり、特に国際的な諸問題の根っこには、貧困が横たわっていることが多い。では、どうすれば貧困を減らせるのか。そのカギは「女性」にあると、ベッツィ・トイチュは言う。

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい
【参考記事】法王訪問中のアフリカ貧困地域にテロ予備軍4100万人

 トイチュはずっと芸術家だった。ボランティアや国際協力とは一切関係なく、40年間、本人曰く「安全な地」で暮らしてきた。だがある日、インターネットを通じて、世界をより良くするために活動する人々とつながるようになる。そうして彼女は、自らも環境と貧困の問題に取り組む組織に参加し、活動するようになった。

 その傍ら、トイチュは世界中で実践されている取り組みをひとつずつ拾い集め、SNS上にまとめていった。その集大成が、8月末刊行の新刊『WOMEN EMPOWERMENT 100――世界の女性をエンパワーする100の方法』(筆者訳、英治出版)に掲載された100のアイデアだ。この100のアイデアはいずれも――ひとつ残らず、すべてだ――貧困に苦しむ女性たちのエンパワーメント(自立や発展に必要な力をつけること)を目的としている。

 女性をエンパワーすることが、どうして貧困削減につながるのだろうか。この疑問に、今では女性のエンパワーメントの啓発活動家であるトイチュはこのように答えている。「女の子が教育を受ければ、結婚や出産の時期が遅くなり、若い女性はより高い技能を要する仕事に就けるようになります。女性は家族のために収入を投資する傾向が男性よりも強いので、女性の収入が上がれば、開発が促進されるというわけです」

歯を磨く習慣が定着すれば自立につながる

 女性の自立を支援するアイデアの中には、歯磨きのように、私たちが日常生活でごく当たり前におこなっている行為も含まれている。そんなことで貧困が軽減できるのか、と思われるかもしれないが、昔よりも手軽に買える安価なジャンクフードが出回るようになった開発途上国で、虫歯は深刻な問題だ。

 歯が悪ければ、ものが食べにくい、勉強にも集中できない。僻地の村では歯科医がいなくて治療もできない、あるいは、いても治療に払える金がない。歯を磨く習慣が定着して虫歯が減れば、こうした問題が解消できるというわけだ。

 一方で、女性性器切除の慣習を撲滅するというアイデアもある。こちらは逆に、日本で暮らす私たちにはまったくなじみがない。だが世界にはいまだに、幼い娘の女性性器の一部を切り取るというこの慣習が根強く残っている地域がある。そして、切除の際の処置が悪かったために感染症にかかって命を落とす少女も少なくない。命を落とすことがなくても、麻酔もかけずに体のもっともデリケートな部分を傷つけられたというトラウマは、一生涯残るものだ。

【参考記事】拒食症、女性器切断......女性の恐怖・願望が写り込んだ世界

 このほかにも本書には、ゴミとして捨てられたペットボトルで家や照明を作るといった、資源不足とゴミ問題を一挙に解決できるような、目から鱗のアイデアも数多く掲載されている。「女性をエンパワーすることで貧困を減らす」――そのための方法がこれほど多種多様に存在するのかと驚かされる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中